上川崎和紙 -016/017page

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「上川崎和紙」 のできるまで

<上川崎和紙とは?>

 上川崎和紙は、福島県の中北部、安達町・上川崎地区で漉かれていを手漉き和紙で、その歴史は約1千年を数え、平安時代の中期に までさかのぼります。

 平安時代には「みちのくの紙」と称され、公の贈答の包み紙などに用いられるほか、“紫式部”や“清少納声といった平安時代を 代表する多くの作家達に愛された「まゆみがみ」は、ここで漉かれた紙と言われています。

 上川崎和紙は今も昔ながらの“手漉き″による和紙漉きを行っておりますが、明治時代の中頃、全盛期には約300戸を数えた和紙 漉き農家も戦後の洋紙の発達や、生活様式の変化と共に衰退し、現在では5戸を数えるのみとなってしまいました。

 上川崎和紙は、紙の用途にもよりますが、ほとんどが楮(こうぞ)100%の和紙で、昔ながらの手漉き和紙の製法で漉かれています。 ほとんど全ての工程が人の手によって丹念に行なわれ、材料の楮も地元上川崎で栽培した楮を使用しており、素朴で暖かみのある質感 に魅せられる人も多く、芥川賞受賞作、東野辺薫の「和紙」のモデルにもなりました。

 平成5年には福島県重要無形文化財として指定を受け、また平成7年には「ふくしま国体」の表彰状として採用され、多くの方々に 喜ばれました。

<和紙のできるまで>

楮の栽培 3月下旬に楮の種を植えます。一度植えると10年以上収穫できます。
ネリの栽培 6月上旬にトロロアオイ(ネリ)の種を植えます。
ネリとはトロロアオイをつぶし、しぼったときに出る粘液のことで、ネリを加えることで漉き水に粘りができ、紙料がすのこをゆっくり通るため、厚みの調節ができ、強い紙が漉けます。
楮・ネリの手入れ 楮は収穫までに数回草刈りをし、小枝を払っておきます。小枝を払うことでまっすぐで良い楮になります。
ネリは成長しきってしまうと粘りが失われてしまうため、“芯止め”し成長を止め、花を摘んで開花しないようにします。
ネリの収穫 10月上旬にネリを収穫します。収穫したネリは水洗いし、瓶(かめ)に薬品を入れて保存しておきます。
楮の収穫 12月に楮を収穫します。葉も落ち、寒い冬に備え樹皮が厚くなるため12月に収穫します。
楮を束ねる 刈り取った楮は3尺ほどに切りそろえます。楮の小枝をはらい、玉なわで束ねておきます。
楮を蒸す 大釜で楮を蒸して樹皮をはがれやすくします。早朝から釜に火を入れ湯を沸かし、1回1時間ほどを数回蒸します。
皮をはぐ 蒸し上がった楮を1本1本丁寧に、手作業で楮の皮を剥いでいきます。車座に坐り、おしゃべりしながらの比較的たのしい作業で す。また、蒸した楮の香りは特有の甘い香りがします。剥いだ樹皮は束ねておきます。
寒風にさらし、
乾燥する
楮が腐らないように寒風にさらし、しっかり乾燥させます。寒風にさらすことで楮が白くなり、良い紙が漉きあがります。
租皮取り
(そかわとり)
楮皮を一晩水につけて柔らかくし、皮表面の果皮を刃のない包丁でこそげおとします。上川崎ではこの作業を“カズヒキ”といいます。冷たい川の水で手作業で行なうため、とてもつらい作業です。
楮ゆすぎ 粗皮取りで果皮を取った楮皮を“白皮(しろかわ)″といいます。白皮を一晩ほど水に浸し、丁寧に水洗いし、粗皮の屑を洗い流します。また白皮は、寒い夜に外に出して凍らせてから家に取り込んで乾燥させ、こうすることで何年も保存することができるようになります。
楮皮煮 楮ゆすぎした楮は、それでもまだ不純物が付着しているため、アルカリ溶液(木や草を燃やして灰を取り、水をかけとった灰汁。または、ソーダ灰や苛性ソーダ)を使い、半日ほど煮て、不純物をとり、これにより真っ白な繊維の楮となります。
楮さらし 釜で煮た白皮を再び水につけ、ゴミやスジを取り除きます。これを上川崎では“カツダシ”といいます。
楮たたき 白皮を石や硬い台の上におき棒でたたき、繊維を細かくします。1日中紙を漉くには同じく一日中楮たたきをしなくてはならず、一番手間のかかる仕事でした。今では“ピーター”という楮を細かくする叩解機が導入され、ずいぶん楽になりました。
紙漉き “漉き舟″に水を入れ、楮たたきで打解した楮を入れ、“マグワ”を前後にゆすってかき混ぜます。
よくまざりあったところでネリを加え、さらにマグワでかき混ぜます。このネリを加えることが紙漉きのミソで、ネリの分量により漉き具合、漉き上がりが良くも悪くもなってしまいます。ネリの分量はその日の気候、室温などにより変わってきますので、経験がなくてはできない仕事です。
また、上川崎では“流し漉き”という方法で紙を漉いています。”流し漉き”とは、漉き枠にすのこをはめ、そこに紙料を汲みいれ、枠を前後にゆすって厚みが均一になるまで数回繰り返し紙を漉く方法で、紙が大きくなるほど難しくなり、熟練した技術が不可欠で、まさに職人技といえる技術です。
最後に、漉き枠の中に余った紙料捨てる“捨て水”という工程がありますが、一見余った水を捨てるだけの簡単な作業に見えますが、へマをすると水が切れず、端の方だけ紙が厚くなってしまい使い物にならなくなってしまう、技術のいる仕事です。ですからこの捨て水の“音″で漉き手の腕が分かるといわれています。
湿紙圧搾
(かったしぼり)
板の上に置かれた紙をおもしやジャッキで締め、一晩かけて水分をとります。
紙干し 水分を搾った紙を“紙付け板”に貼付け、晴れた日に外へ出して寒い外気にさらし乾かします。上川崎では主に男性が紙漉きを、女性が紙干しを行なっていたそうです。
紙切り 干しあがった紙を裁断します。紙をそろえ、紙切り板の上に置き、まな板を当てて包丁で切断します。
ここで裁断を誤るとせっかくの良い和紙も使い物にならなくなってしまいます。ですから紙漉きを引退した紙漉き職人の仕事とされ、主に紙漉き農家のおじいちゃんの仕事とされていました。

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