てんえいむら見て歩き トラベルブック -040/064page

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民話 4  深沢

おろか婿

 昔むかし、大里深沢(ふかざわ)の村はずれの一軒 家に、とても素晴(すば)らしい器量よしの婿が いた。したがって、嫁(女房) もまたす ごい美人であった。ところがこの婿様、 顔やすがたに似ず頭の中味が低く、誰か らも「おろか婿」 の名で呼ばれていた。
 ある時、女房の実家の縁日(えんにち)によばれ、 色々な品々御馳走(ごちそう)を出されたが、その中 でも「だんご」が一番で、ベロもヘソも ぬけるほどうまかった。
 この婿様、この味が忘れられず、女房 に作らせ、また食ってやろうと「だんご、 だんご…」と口の中でくり返しながら、 家路の帰りを急いだ。
 一軒家のために道は悪く、あいにく雨 あがりであったので、路面に深い水たま りが出来ていた。婿様は、いつもの調子 で「どっこいしょ」と飛びこした。その はずみに「だんご」 が「どっこいしょ」 と変わってしまい、家に着くや「どっこ いしょ」を作れと女房に言いつけた。言 われた女房は何がなんだかさっばりわけ が分からず、一つ言い二つ言いで、 二人は大口論(だいこうろん)となった。
 たまたま外出先から帰宅した母親が、 このさわぎの事情を知るや「おろかもの」 と叱(しか)り、次の瞬間かたわらにあった太々 とした「すりこぎ棒」 で、婿様の脳天め がけてボーンと強く一撃(いちげき)を食わした。
 婿様は痛い痛いと両手で頭をおさえ大 苦しみ。しばらくたって、女房が婿様の 頭を見て「アラッ、だんごのようなコブ が大きく出来たワ」と言ったその途端(とたん)、 この婿様半泣きの大声で「そのだんごの ことだ」と叫んだという。
 この「おろか婿」の名前、また、住家(すみか) などのことは何時(いつ)どうなってしまったの か、今は誰にも分からない。

稿者 添田光郎

「天栄村の民話と伝説から」

だんごのようなコブが大きく出来た婿様


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