喜多方市勢要覧 -007/026page
The Roman of Kitakata
深く沈んだ赤。光を湛える黒。400年以上もの、長い伝統を誇る会津塗りは、 古くからその名を、多くの人々に幅広く知られてきた。
喜多方には、漆器造りの条件が 揃っている。市の北西に広がる飯 豊山からは、良質の、豊富な木材 が産出され、この木材を使って、 木工品や漆器の木地などが作られ る。また、漆のできは気候条件に 大きく左右されるが、喜多方の盆 地特有の気候は、上質の漆を生み 出す。それに、なにより重要なの は、会津人の、寡黙に、しかも一 徹に仕事に取り組む情熱である。 この職人かたぎが、会津の漆器を 大きく支えてきた。
喜多方の漆器の特徴は、美術工 芸品ではなく、お椀など暮らしに 必要な日用雑辺の什器を、ていね いな仕事で、しかも手軽な値段で 提供するところにある。特産品で ある揃椀(通称八ッ椀) は、法事 などの仏事に使われる食器で、今 ではみることも少なくなった、自 宅へ客を集めての慶弔のふるまい を偲ばせる。
漆器づくりには、ほこりと湿気 が禁物である。頑丈な蔵ならば、 分厚い壁で外気と遮断されるため、 ほこりや湿気の影響を受けにくい。 また、寒暖の温度変化が少ないの も好都合だ。塗り師や漆器商が多 く住んでいる菅原町には、今も多 くの蔵が残っている。
手作りの漆器では、仕 上げまでさまざまな工程 が必要だ。1年半もの長 い歳月をかけて、木地を 補正し、磨き、下塗りし、 乾燥した後もういちど上 塗りをする。もっとも手 のかかるのは最終工程の上塗りで、 椀の外側、内側、上縁、糸じりと 塗り分ける。
塗り分けた器は、ときおり上下 を返さないと、漆が流れてムラに なる。このため、幅10センチ、長さ1 メートル程の板の上に6個の椀を並べ、 上にも同じ板を乗せて、二枚の板 で挟みながら、6個の椀の上下を 一度に返す。この「返し」は、熟 練を要する。塗った直後には5分 ごと、それから15分ごと、30 分ごとと時間を置いて行うが、乾 きの遅いときは、十数時間も続け る。じつに根気の要る仕事である。 喜多方の職人たちは、この伝統の 技法を、連綿といまに伝えてきた。
現在、喜多方市で漆器製造に従 事している人は101人、生産高は 4億2千万円と、重要地場産業と なっている。また、上質な国産漆 の確保を図るため、漆の植林事業 に着手するなど、会津漆器の伝統 と系譜を守るために、多くの人々 の懸命な努力が続いている。