喜多方市勢要覧 -013/026page
The Roman of Kitakata
酒どころ会津地方の中でも、 喜多方は潤沢な湧き水と、 味の良い米に恵まれた酒 造りの里である。喜多方には、今 なお頑固なまでに、蔵の中での酒 造りを続ける造り酒屋が残ってい る。厚い壁で外気を遮断する蔵は、 真夏の暑さを遮るうえに、ほこり や雑菌を寄せ付けず、酒造りに最 適の環境を保つことができるのだ。
ある造り酒屋では、路地をはさ んで6棟の蔵が建ち並び、それぞ れが蔵の利点を充分に活かしなが ら、精米所や醸造蔵、貯蔵蔵など として使われている。米を蒸すた めのレンガづくりの巨大な炉や、 鉄を嫌うために 内部はすべて木 造りの麹の室。 醸造蔵の中央に あるポンプから は、汲み上げら れた地下水が、 湧き出ている。
新酒の仕込み は、毎年12月頃から始まる。ぎ りぎりまで精米した米を大釜で蒸 し、蒸しあがった米は厳しい寒気 の中で冷され、水と麹を加えて仕 込みタンクに入れ、ゆっくりと15度程度に温度を上げると、数日 の後には泡が上がり始める。酒造 りのために、遠く南部や新潟など からやってくる杜氏たちは、この 泡の状態から、酒の出来を見極め る。こうして、醗酵、熟成された 酒は、2月の末にもなると、寒仕 込みの新酒として売り出される。
貯蔵蔵で40センチもの厚い壁に守 られながら、夏を越してじっくり と熟した酒もまた、うまみとまろ みを増して、のどに心地よい。 9月頃に蔵出しされる”冷やおろし”は、 酒通の垂涎(すいぜん)の的である。
酒造りは後 に引けない真剣勝負である。そのため、造り酒 屋には神棚が多く、蔵ごとに酒の 神がまつってある。しかし、手造 りの酒の出来は、その年の米の質、 天候、杜氏の腕などにも大きく左 右される。そのため、一方では常 に安定した高品質を求めて、すべ てをコンピューターで集中管理す るシステムを取り入れた造り酒屋 もある。ほこりや雑菌から遮断さ れた清潔な工場では、精米、蒸し、 醗酵、圧搾絞り、熟成、殺菌、瓶 詰め、全国への発送に至るまで、 一貫した管理システムで制御され る。屋外には、一升瓶にして十万 本分の清酒が入る貯蔵タンクが林 立し、一定の温度を保つようにコ ンピューターが作動している。わ ずかの変化で品質が変わる日本酒 ゆえに、微調整は常に欠かせない。
新旧と手法の違いはあるが、い ずれにしても、うまい酒を求める 心に変わりはない。喜多方の芳醇 な酒は、酒造りに携わる人々の、 絶えまない研鑚に支えられている。