塩川町勢要覧 -008/030page
湿原に吹く透明な風。
四季それぞれに輝く時。
国の天然記念物にも指定されている雄国沼湿原の植物群落。
その数は二百八十種にも及び、湿原は月ごとに違った表情が楽しめる。
その昔、会津藩主の行楽地であった御殿場公園は、当時の風情を今に残し、
春は桜、夏は花しょうぶ、秋は紅葉と、一年を通して華やぐ。風には表情がある。冬、人々に吹きつける容赦なく冷たい北西の季節風。それ は、いつしかやさしいそよ風に変わり、町に雪溶けの季節を告げる。会津に吹く 風は、四季折々に移り変わる自然の風景を私たちの心に、より鮮明に刻みつける。
町の中央部から東を望むと、緑濃い大きな山容、雄国山が見える。雄国沼は、 その頂上の窪地にあり、隣接する猫魔ヶ岳の火山活動から生まれたカルデラ湖で ある。雄国沼一帯は磐梯朝日国立公園に指定され、雄国沼湿原は、猫魔山の火口 跡にできた磐梯高原でもっとも古いものとされている。また、湿原に咲く植物群 落は、国の天然記念物に指定され、湿原植物の数は二百八十種にも及ぶ。
雄国沼の湿原に吹く風は限りなく透明である。澄んだ水と湿原に咲く花々が生 みだす絶妙のコントラストを崩さぬように、風は沼の水辺をそっと吹き抜けてゆ き、湿原は冬を迎えるまでの間、月ごとに違った魅力を私たちに見せてくれる。
春、雪溶けを迎えた湿原に花の季節の到来を告げるのはミネザクラである。残 雪の湿原に凛と咲くその姿は印象的で、見る者の心を強く引きつける。五月にな ると、湿原は白い茎に包まれたミズバショウの花がたおやかに香り、ショウジョ ウバカマが紫色や赤色に色づく。また、六月にはレンゲツツジが沼を覆うように咲き乱れ、春の湿原は華やぎに包まれる。夏になるとその彩りは一段と増し、なかでも七月、黄色いニッコウキスゲの花が湿原一帯を覆うその風景は圧巻である。朝に花を開き、夕方になるとしぼんでゆくため、この花の開いた姿を目にしようと、この時期、湿原にはたくさんの人が訪れる。八月にはヤマユリや、小さな紫色の小花がたくさんついたヤナギランがそっと花をつけ、九月、鐘形をしたエゾリンドウが咲く頃には、湿原にも秋の風が吹き始める。やがて、麓の町の人々が冬構えを始めるようになると、山はうっすらと柔らかな雪に覆われ、華やかな湿原もまた、春を迎えるまでの数ヵ月、白い静寂に包まれる。
その他にも、塩川には爽やかな風を感じられる場所が数多くある。花しょうぶ祭りで知られる御殿場公圃。今から三百六十年ほど前、御殿場公園の束側に面した低い水田地帯は、雄名川と日橋川の合流点であった。この合流点に、日橋川が氾濫して東側丘陵が決壊するのを防ぐために造られた堤防によって、周囲約四キロメートルの琵琶阿湖と呼ばれる沼が生まれ、琵琶阿湖一帯は、野烏と川魚に満ちあふれた。元禄五年(一六九二)、第三代会津藩主保科正容の母君が琵琶阿湖に遊び、以後この地は歴代藩主一家の行楽地となり、このことから「御殿場」と名付けられた。現在も、公園は当時の風情を残し、桜の舞い散る春先はもちろん、初夏の花しょうぶ、秋の紅葉と、四季折々に移り変わる自然と風の表情が楽しめる。