鮭立磨崖仏 - 098/135page
― 荼枳尼天(だきにてん)
もとは人の死を神通力で六ヶ月前に予知して、その心臓を食うという恐ろしい夜叉でした。それで、血を盛った杯を手にもって人の手や足をかじっている、物凄い姿で表現されています。
しかし、大黒天のところでふれたように、仏に教化されて病巣をとり除く善神になりました。神通力があるので、荼枳尼天をまつると願いごとがかなうともいわれています。乗りものの野干(ジャッカル)は狐と似ているため稲荷神と混同されるようになりました。大岡越前守が生涯の守り神としていた愛知県の豊川稲荷の祭神は、じつは荼枳尼天です。鎌倉時代の高僧・義伊禅師が宋(現在の中国)から帰る途中、船中に手に宝珠をもって白狐にまたがった神があらわれ、荼枳尼天と名乗って舟旅を護ったので、その尊像をまつったといわれます。また、曹洞宗の開祖である道元禅師が在宋中のこと、旅の途中で腹痛をおこされたときは、稲荷神があらわれて薬を差し上げて救ったといわれます。曹洞宗とは縁が深いので、これをまつる寺が多いのです。
お姿は、宝珠と剣をもって白狐に乗るかたちをとるようになりました。鮭立のは狐にのる天女形です。県内では他に見られないようです。