舘岩村要覧 -010/028page
雲の上のお花畑、田代山湿原。
たていわのゆとり空間は自然浴型
氷河が解けて海域が広がり、日本は島国になったという。氷河時代をしのばせて涼風が吹き上げ、残雪の多い山上湿原は、かつての大群落の主たちの寄り合い世帯のお花畑。あれから1万年。短い春の可憐な草花たちは、どんな原風景を夢見ているのでしょうか。
田代山系の清流を集めた湯ノ岐川ラインは、村内11風致地区の1つ。浅瀬で河鹿=カジカガエルが哀調を帯びた声で語らっているのは、自然度の高さ礼讃です。 山上湿原にワタスゲが白い綿ぼうしを敷きつめたのち、うす紫のリンドウ、淡い黄色はチングルマ、ピンクに華やぐイワカガミ、オレンジ色にキスゲ…の彩がみごと。周縁の林床では、ひっそりと白い花をつけるオサバグサに巡りあったりします。日本固有種で、葉の形が機織のオサ(クシ)を思わせます。
ここは、高山植物が密やかに花暦をつづる小尾瀬・田代山湿原。東北と関東を隔てる帝釈山脈に連ねるピークの一つで、1936mの山上をお花畑で占める野生の楽園です。
今から、一千万年もの昔。大地が雪や氷にとざされ、融けるたびに、南下や北上、登山や下山を繰り返し、ついに逃げきれずに、おびただしい数の命短い草花に装いを変え、種子や球根での冬越しが始まったという氷河時代。その大スペクタクルを物語る広さ23haの湿原は、比高500mの岩塊の秘境を90分。さらに尾瀬と結ぶ縦走路を、主峰の帝釈山(2059m)まで足をのばすと60分。太古の地殻の胎動をしのばす流紋岩や黒雲母花崗岩を覆うツガ、クロマツ、カシワの樹海の森林浴を楽しみながらの山行は快適です。
21世紀は、快適で美しいゆとり空間を創る時代。エコロジー型へと生活と産業活動の発想が転換していく今こそ、わたくしたちは、自然健康村(ヘルシーランド)の11風致地区の一つである田代山一帯の可憐な生命の讃歌の保全に万全を期していきます。