教育福島0054号(1980年(S55)09月)-005page

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巻頭言

 

自然との語らい

 

自然との語らい

早川芳太郎

 

当所が、甲子高原に創設されてから満三年を経過した。この間に、延べ二十五万人の少年たちが当所を利用したが、これを県別にみると福島県が最高で、全体の二十七パーセントに及んでいる。当所は、福島県及び関東七都県の少年団体、小・中学校を利用対象としているが、地元県の利用が多いことは大変うれしいことである。特に、昭和五十四年度の年間利用率が九十五・九パーセントとなり、少年自然の家・青年の家などを含め、この種の施設としてこれまでにない全国最高の利用実績をあげることができたのは、地元福島県の学校教育・社会教育関係者の、深い御理解と御協力の賜ものと深く感謝している次第である。

私は、少年自然の家における教育の重点目標を、“自分自身で考え、自分の意志で行動するいきいきとした少年を育てること”においている。

この目標を実現するため、第一に、少年を大自然の中で思う存分活動させること。第二に、集団宿泊生活においては、出来うる限り規制や管理的色彩を払拭し、少年たちの自由な雰囲気を最大限に確保することの二点を基調とした実験的運営を試みている。

最近来所した少年たちの感想は「友達と一緒に風呂に入り、食事をし、ベットでいろんな話をしたのが楽しかった」「みんなで助け合い、励まし合ってやっと登った赤面山山頂の感激に来年も挑戦したい」「真暗な中でキャンプファイヤーの燃えさかる炎、夜空にあふれる星のきらめきに感動した」「阿武隈川源流の澄んだつめたい水の感触、雨にぬれながら立って食べた野外炊飯のカレーの味が忘れられない」等である。

少年自然の家で生活し、活動している多くの少年たちを見ていると、実に明るく、いきいきとしている。この現実は、そこに自然があり、楽しさや苦しさ、驚き、感動、創造、発見、挑戦、冒険、友達との心のふれ合いがあるからだと私は思っている。それはまた、人間の求める心に応じて様々に変化する自然の、きびしく冷厳な威力や万物をはぐくむ豊かな恩恵に、好奇心のかたまりのような少年が、体当たりして得たよろこびの表情であるともいえよう。

“疑わざれば求めず、求めざれば得ず”といわれているが、旺盛な知識欲を持つ少年のあふれ出る素朴な疑問を、大自然を素材として大切に育て、教師や指導者の適切なアドバイスによって、解決の方法を少年自身が工夫し研究することこそ、学習の原点であり、その実践は少年自然の家の使命でもある。

私は今、このような学習をもっと多くの少年・父母・教師・少年団体指導者・教育委員会関係者に体験していただきたいと思っている。そしてみんなで協力して、少年教育を更に充実したものにすることを切望してやまない。

(はやかわよしたろう 国立那須甲子少年自然の家所長)

 

 

 


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