教育福島0054号(1980年(S55)09月)-015page

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時代的変化がみられる。かつては、中学部卒業生の大部分が卒業時に就職していたが、近年、卒業時に就職する者の割合は、三割以下に低下している。中学部生徒の障害の程度が重くなったことが、就職率低下の最大要因と考えられる。就職率の低下とは対照的に、進学率の上昇傾向がみられる。中学部生徒の進学先の大部分は、精神薄弱養護学校高等部である。

中学部及び高等部においては、作業学習の時間が設けられ、職業生活や家庭生活に必要な基礎的知識、技能、態度等の養成を図る指導が行われている。これは、職業適応指導であり、これとの関連において進路指導も行われるべきである。また、職場に適応するための態度等、責任感、持久力、積極性、対人関係などを養うため、現場実習が行われているがなお一層の充実が望まれる。

 

四 肢体不自由養護学校

 

肢体不自由養護学校に在籍している児童生徒のうち、脳性まひ児の占める割り合いが五割を超える現状では、進路指導のあり方が問い直されている。

中学部卒業生の進路状況をみると、進学率が伸びて、七割を超え、なかでも肢体不自由養護学校高等部へ進学する生徒の比率は八割を超えるに至っている。高等部卒業生の進路状況は、進学する者はわずか二割弱、民間企業に就労する者は約四割であるにすぎず、更生援護施設に就労する者が三割、望んでも就労できない者が二割弱いる。

このような進路状況の現実を踏まえて、進路指導のあり方を模索し続けているのが、肢体不自由養護学校の現状である。職場や施設の見学や、またそこでの実習や卒業生などとの交流、卒業後のアフターケア等に力点を置いた指導が中学部の段階から取り入れられつつあるが、より充実した指導が期待される。

 

五 病弱養護学校

 

中学部卒業生で就職する者はなく、高等学校に進学する者が多い。肢体不自由養護学校高等部に一名進学しているが、医療機関で引き続き療養するという傾向もみられる。

病弱の生徒の中には、医療機関で療養してきたため、学習に空白があり、健康や学習に不安を持ち、自己理解が不十分な者が多くみられる。そこで、進路指導においては、こうした不安傾向の除去、自己理解の深化、健康の自己管理、対人関係等に指導・援助の重点が置かれるべきである。

 

問題点

 

1、変動する社会状況の中にあっても仕事を通してできるだけ正しく自己を生かすことができるよう指導する必要がある。しかし、寄宿舎や施設での生活に偏りがちであるので、社会のしくみや人間関係、職場の状況、更には将来の進路に対するみきわめが甘くまた狭くなりがちである。

2、養護学校教育の義務制施行後、重度・重複の生徒が増加している現状から、職業選択の援助等、きめ細かな進路指導を行う必要がある。

3、情報収集の大切さは周知のことである。適切な情報の一つとして、卒業後の指導(アフターケア)の実施の際に得られる資料がある。これによって何が本人をその職場(学校)に適応させているのか、何が不適応なのかを分析することができ、次回の指導に継続させることができるので、ぜひ実践したい。また、家庭訪問や関係機関の訪問も欠かせないことはいうまでもない。

 

今後の課題

 

1、各学部・各学年のそれぞれの段階ごとに指導計画が立てられなければならないが、ややもすると、卒業学年にのみ指導が集中しがちである。それぞれの段階に応じて、適切な指導計画を立案し、指導を行うべきである。

2、健常児に必要なことは、すべて障害児にも必要である。障害があるからといって、障害児には必要でないというものはない。例えば、聞こえなくても話しかけてやることは大切である。歩けなくても靴は必要である。このような考えを常に心に置き、障害からだけその子を見ず、良い点を伸ばしていくようにしなければならない。また、生徒に対する接触のあり方としては、「これができる」とか「ここから始めればよい」というかかわり方が大切である。更に、できないことばかりに目をむけず、今、どんなことが、どこまで、どのようにできるのかを注意深くみて、適切に指導することは大切である。

3、障害者が健常者と同等の賃金の場合、雇用主は、それだけの仕事を要求するのが普通である。きびしさに耐えられなくなって、途中でやめるケースが時おり見られるが、忍耐力や社会性を養い、職場に適応させる必要がある。また、給料の内容についての具体的な見方や、休むときはどうするのか、あいさつのマナー、掃除の方法、人間関係のあり方等、より具体的な社会適応の方法を指導し、それらの欠如により脱落するようなことがないようにしたいものである。

4、各地区、各学校に親の会が結成され、活発に活動するようになってきたのは喜ばしいことである。これらの会を利用し、職場や家庭の問題を含む、結婚、育児更に生涯にわたる生活課題のとらえ方など、広範囲な分野の活動を広げていく必要がある。

5、生徒が登校してから下校するまでの学校教育のあらゆる場で、計画的かつ系統的に指導することが大切であり単に、学級担任や進路指導主事にだけ指導をまかせておいてはならない。全職員が共通理解のもとに一丸となって取り組むことが要請される。

 

 

 


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