教育福島0108号(1986年(S61)01月)-059page
世界の教育は、今。 海外教育事情の紹介
一人一人の確かな存在
−東ドイツ・ベルギー・アメリカ−
西ドイツのニーダーザクセン州デルメンホルスト市の小学校訪問が、海外教育視察の第一歩である。教室の雰囲気はまことに柔らかで伸びやかであった。この国の小学校は四年制であり、卒業時には能力に応じて進路が振り分けられる。将来大学に進むためには、ギムナジウムという中等学校に進学しなければならないというきびしい中で、意外という感じでさえあった。しかしその答えは授業の中にあった。先生はとても柔軟であり、学習も画一的でなく一人一人を学習過程にうまく存在させている。これが子供たちの心理的ゆとりを醸成しているもとになっていると思った。べルギーの先生から「日本の子供は、ベルギーの子供の倍は勉強していますね」と言われた。週五日制でしかも水曜日は半日という自分の国の状況に対し、日本の子供たちのたくさんの宿題、土曜日も勉強してさらに塾通いという様子を知っていてのお話なので、あいまいにうなずくだけにした。
アメリカの子供たちはとりわけ明るい。笑顔がいい。長い海外視察で疲れ気味の心が洗われるような対応であった。日常の学校生活がうかがえる表情であった。教室訪問はどこでも自由に……というので勝手に校舎を巡って参観した。ミシガン州ディアボーン市スノー小学校には、在籍四百人近い学校なのに五・六年生の複式学級があった。クラスを編成して定数より多いときは、はみ出した数を合わせて複式にしているようである。一人でも多いと学級が増える我が国の学級編成からは理解できないことであった。しかしその教室に入ってみると、学年の区別は一見してわからないほど一人一人の学習を核にして、個性的・個別的に指導を進めているその学習状況にすっかり引き込まれてしまった。
教育の質について、いろいろ考えながらの一か月の教育事情視察であった。
[昭和60年度文部省教員海外派遣 長期第十三団]
郡山市立開成小学校長 吾妻和郎]
デルメンホルスト市パーク小学校3年国語の授業(西ドイツ)
ヴィルボルト市小学校4年図工の授業(ベルギー)
ディアボーン市スノー小学校5・6年の複式学級(アメリカ)