研究紀要第37号 登校拒否に関する研究 - 021/022page
6.集計と考察
(1) 登校拒否群と正常群の母親の自我状態の比較両群の五つの自我状態を数量化した平均値を比較すると,表1,図2のようになる。
表1 両群の自我状態の数量化平均値
F P M P A F C A C 登校拒否群 13.3 9.9 13.6 8.2 10.8 正 常 群 12.4 11.0 13.8 11.4 7.2 差 +0.9 -1.1 -0.2 -3.2 +3.6両群の著しい差は,FCおよびACに表れ,それぞれの自我状態が正反対の傾向を示している。
また,FC,ACにおいては,両群の間に統計的に5%レベルで有意の差が認められた。しかし,FP,MP,Aにおいては,両群の間に統計的に5%レベルで有意の差は認められなかった。また,図1の登校拒否群の母親のエゴグラムからわかるように,FCが低く,ACが高いことは,感情の起伏が激しく,情緒的に安定しにくいことを示唆している。このことは母子間の交流においても,子どもは母親の心の状態に,安心して身をまかせることができないという,心と心のふれ合いの不足につながっていくことを示しているということができる。
次に,登校拒否群の母親のエゴグラムのうち,五つの自我状態がアンバランスを示したものを取りあげ,考察を加えたい。
図3は,中学校3年男子の母親の,初回面接時におけるエゴグラムである。総合的な解釈としては,「自分のわく組みが強く,世間の目も気になり,常にだれかにあたるか,自分を責め,人生に喜びを感じることが少なく,ゆううつになるタイプである。このため,子どもに対する関心も,世間体を気にしがちなので,子どもはいろいろな問題を持つようになりやすい」といえる。これをカウンセリングのための資料の一部として活用し,養育態度についての感受性を高める訓練をした。その結果,約6か月後,子どもが登校を開始する直前には,図3のようなエゴグラムに変化してきた。
これは「子どもや他の人との人間関係もうまくいくようになり,愛情もあり,合理的,現実的な処理もできて,生き生きとして,自分のやりたいことをなしとげようとする,母親としての望ましいタイプ」に変容したことを示している。
7.まとめに
エゴグラムは,白我状態を数量化し,グラフとして客観的にながめることにより,もしも,歪んだ行動性格様式があれば,それを修正し,その人なりに望ましい方向性を引き出してやるのに役立つものと思われる。
今回のエゴグラムの調査をとおして,登校拒否群の母親は,母子間の心の交流が少ないことがわかったが,これはカウンセリングをとおして,母親に気づかせることができると考える。また,日本古来からいわれている「厳父慈母」の姿が,登校拒否の子どもを治療していくうえで,大切な養育態度であることをあらためて痛感した。