月舘町伝承民話集 -010/200page
やがて中から戸が開いて 老夫婦が現れ一瞬驚きながらも 落人である彼をやさしく 迎え入れてくれた そして傷口を手当てしたり 濡れ切った着物をとりかえさせたり ねんごろに彼をいたわってくれた でも 彼のからだはすっかり疲れて 冷え切っていた― 何も言葉がいえなかった 彼の名前も住所も年令も 彼の口からは語れなくなっていた 彼の容態は刻々と変って行った かすかに唇が開いて 母を呼ぶ様に 何かを訴えていたが