月舘町伝承民話集 -025/200page
は夢中になって山の中を歩きつづけた。しかし下手渡の方とは逆の方に入ったのか遠くに見える筈の村の灯も見えない。
四人は全く途方にくれた。そのうち一天俄かにかきくもって大つぶの雨が降ってきた。四人は腰の刀を握りしめてがたがた身振いするばかりでどうすることも出来ない。
そのうちの一人の武士が日ごろから山の神を信仰していた。この時ばかりとめい目して山の神を念じて救 いを求めた。ほかの三人も彼の異様の信仰ぶりをじっと見つめているばかり、何ともいえない寒さと飢えに身 も心もつぶれる思いがした。やがて彼の祈りが山の神に通じたのか、ぱったりと雨はやんできれいな丸いお 月様が松林の上に輝いてきた。四人はこおどりして喜んだ。月の光に照しだされてよく見ると、松林の中に細い 小道がはっきり見える。四人はだまったままその小道をたどって山を下りて樋ノロの田んぼのあるところま でやって来た。漸く遠くに下手渡村の灯がきらきら見えて来た。四人の安否を気づかって、村では大さわぎ だった。四人が無事に帰って来て家の人々はホッとあんどの胸をなでおろした。そしてやがて、その話が村 中にひろがった。四人は申し合わせて金を出しあって樋ノロの田んぼの畦に山の神の碑を建てて、神へ感謝 の念をささげたという。四人の武士の名を刻んだ山神の碑が、樋ノロの畦道に建ってあってその時の話を今 に伝えている。