月舘町伝承民話集 -054/200page

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んは夜になっても、そこを離れようとしませんでした。部落の人たちは、老母から変った旅僧のことをきい て、みんな希望と不安を抱いた。

 「あのお坊さんがきっとこの部落の人たちのために病気を治してくれるかも知れない。……」

「いや坊主なんて、あてになるものか。…まじないも、うらないも病気にはだめだよ。‥‥」
などと、口々に言い 出して部落の中はさわがしくなってきた。二、三日はまたたく間にすぎてしまった。その日お坊さんはこの 間、頼みこんだ老婆の家にひょっこり顔を出した。庭先に腰を下ろすと持って来た包みをといて、その中か らのみと槌をとりだし、見つけてきた松の丸太に彫刻を始めた。部落の人たちがあっと驚くのを少しもここ ろにかけないように昼となく夜となすこつこつと鎚をふるって一心不乱にのみを動かしているのでした。

 今までやさしかった目はらんらんと輝き、全く別人になったようにだまって仕事をつづけました。三日三 晩かかってお坊さんは仕事の手を休めて、「よう出来たぞ。これでいい……」と、とてもうれしそうにつぶや きながら部落の人たちを集めました。「これは観音様まじゃ…この仏さまを信仰すると病気も治るし、きっ とみんなしあわせになって、この部落も繁栄するんじゃ……」とニコニコしながら言うのでした。部落の 人たちは喜んで、みんな力を合わせて観音堂を建てて、観音さまを安置しお祭りをしましたが、旅僧はだれ も知らないうちにいづこともなく立ち去って行きました。その後、部落にはやっていた疫病もすっかりなく なって、みんなしあわせに暮しました。観音さまには 「寛政四年七月 禅木食」と彫りつけられてあり、こ れが木食上人の若い頃の旅の姿であった。

附記 昭和48年10月福島県の仏像展に、この観普様を差出したところ、滝つぼのほとりにしぶ


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