月舘町伝承民話集 -053/200page

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木食上人と観音さま

 「お坊さん!!何とかお助けくだせい。この部落さ悪いはやり病が入って来て、みんな困っておりますだ。お 医者も遠いし薬もありませんで、どうしていいかわかりやせん。どうぞ、みんなの苦しみを救ってやって下 せいまし……」と泣くようにして旅僧にすがりつく老母があった。

 今から二百年程前の夏の暑い日の夕暮れ時だった。細い山道を石田の方から中古屋へ向って歩いて来た旅 の若い坊さんは足をとめて、老婆の言うことにじっと耳をすまして聞いていた。「そりゃ困ったのう。何とかし なくちゃなるまいのう……」と、やさしい言葉をかけて老婆の家の方に向って歩いていた。
「ああ、そうだ。 この部落の近くに滝があるというが、どのあたりかのう…」
「あのむこうの山すそに滝はあるんじゃが、お坊 さん、滝に何か用かい。」
「いや、別に用ってはないが、ちょっと見たいものだ…。」
「「すぐ、あそこだからわ かりやすよ。」
老婆と若い旅僧はそこで別れて、滝のある方へどんどん歩いて行った。旅僧ははたちを2つ3つ越えた位だろうか。目のやさしい、どこか気品のあるけだかさの感じられる人だった。旅に疲れた様子も なく、小さな荷物をたずさえていたのが、よその旅僧とちょっと違うところだった。やがて中古屋の奥にある 滝にたどりついたお坊さんは、目をとじて何かを祈るように経文をとなえはじめた。夕暮れとはいえ、むし 暑い宵だったが、滝つぼのあたりはしぶきにぬれて涼しそうに感じられた。若い僧は、滝つぼのかたわらに 腰をおろし、目をとじたまま、じっと動こうとしません。さっき道で出会った老婆が、お坊さんを心配して 後からついて来たのですが、お坊さんは気づいたのか気づかないのか、振り向きもしない。こうしてお坊さ


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