月舘町伝承民話集 -139/200page

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道祖神に助けられた話

 時は文化二年、秋も末の頃、妻や下男に見送られた桐屋藤右ェ門が桑折の家を出たのは、今の午前三時を 過ぎたばかり、ようやく一番鶏の声が聞えた頃だった。藤右ェ門は、今日の市でひと働きをするため、きの うまでに集めた大枚の金子をシツカリ腰に結び阿武隈の渡しを早目に渡り、保原から掛田、月舘を夜明け前 に越えるつもりで道を急いだ。掛田も過ぎ小国にはいると小国川の橋があり狭い板橋である。やがてそこか ら上り坂となる。左に松林、右に田んぼ、用水沼と続く、人家もなく淋しく薄気味の悪い峠道である。その 頃の道巾は精々二米位で当時は堀割りもなかった。そのような淋しい場所だから、昔から追はぎが出たとい う話をきかされていたし、また用水沼には、入水して死んだとか、殺して投げ込んだとかの話もあった。未 だ暗い。人っ子一人通らない。一刻も早く通り過ぎたいものと、ますます足を早めるのだった。坂道を半分 位登った頃、藤右ェ門は後の方に異様な気配を感じて後をふりむくた。未だ暗いのでハッキリとはわからない が確かに何かが来たようである。それもこちらの様子を、うかがいながら、後をつけてるような感じがして きた。藤右ェ門は自分に落ちつけ落ちつけといい聞かせながら、少しゆっくりと歩いてみた。後の人もユッ クリ来るようである。急げば彼の人も急ぐ。ある間隔を保ちながら、これはつけられたと考えたとき、藤右 ェ門は、背筋に冷たいものが流れるのを覚えた。追はぎだ、と直感した。身体はガタガタふるえ、足はガクガクもつれ、いくら前に進もうとしても一寸も進まない。腰に巻いた金の包みが急に重く感じた。

 「もう駄目かと観念もしたが、やはり心の底では、なんとかして助かりたい。」一心である。金は後で働けば


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