月舘町伝承民話集 -140/200page

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出来る。金を出して、命だけは助けてもらおう。なんとかして、この難関を無事とおり越したいと思いなが ら峠は越えた。声を出そうにものどが、カラカラに乾いて声も出ない。その中幸い下り坂にさしかかったの で、思いっきり走り出した。すると前の方に立派な武士が、こちらに向って立っているではないか。藤右ェ 門は夢中で、武士の前に駈け寄り、「お助け下さい。」というにも息が切れてヤットのことだった。藤右ェ門 について来た追はぎは、この様子を見て、きびすを返し、一目散に逃げて行ってしまった「助かった。」と思 う安堵感に、一時に気もゆるみ暫くぼうぜんとしていた。

 やがて、助けられた武士に 「本当に有難う御座いました。お陰様で危いところ助かりました。」といいなが ら頭を上げて見ると、今迄そこに立っていた武士の姿は、かき消したようにいなくなっていた。

 藤右ェ門は狐にでもばかされたのではないかと、いぶかった。はや夜はシラジラと明け初めてきた。見回 すと道端に「道祖神」がポッネンと立っている。

 藤右ェ門はその側に腰を掛けて考えた。これはキット日頃信心する神様が、自分の危機を、お救い下さっ たのに違いないと気付き道祖神の前にひざまづいて、心からのお礼を申し上げるのだった。

 藤右ェ門は後日、そこに石段のある石の祠を建て、肋けられたお礼をした。祠と石段には、桑折桐屋、 文化二年と刻まれていた。

 ちなみに、桑折の桐屋では自分の家の後に、同じ様な石の祠と石段を造り、毎朝薄暗い内に御灯明と御飯 を上げ、今でも感謝の意を表わしているということである。


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