月舘町伝承民話集 -167/200page

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老狐首を吊って火事を防ぐ

 「作兵衛どん、こんなところになにをしているんだ。天とうさまが、一丈もたかくあがったよ。」と、とな りの家の新どんに声をかけられ、百姓作兵衛は目をさましました。作兵衛にしてみれば、近所のわかし温泉 で一ばいひっかけいい気持でねていたわけでありました。ふとんと思ったのは乾し草をかさねたものであり、 湯船と思ったのは、木の香も新しいきのう据えたばかりの肥溜でありました。狐にばかにされたことは誰に でもわかることでした。

 しかし、どう考えてみても悪意にみちた狐のいたずらではなく、そこに何か一ぱい好意といったものが感 じられました。さてはあの狐のしわざかと思い、作兵衛次のように申しました。「今から五年前のこと、猟師 に追われた傷を負った狐が一匹、うちの木ごやに駈けこんできたことがある。わしはかわいそうに思い、薬 をつけ繃帯をまいて、夜中に放してやったことがある。多分、その狐のしわざに相違ないと思われるのだ。」

 そして作兵衛は一匹の狐が枕元にきて「ここの屋敷に大火事がおこるが、この身を鎮守さまにささげ、そ の火難を防ぐことを祈願するつもりだ。」という聞きすてにできない重大なことを申しました。そこで、この ふたりは鎮守さまのところにまいりました。もしやと思ったことが、それは正夢でありました。老狐が社前


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