上川崎和紙 -002/017page
カッタン、カッタン、ザブザブ、ザー…。
規則正しく漉き桁を揺らす手から 湯気が舞い上がる。からだの芯から 冷え込んでくる東北の睦月。水は手 が切れるほどに冷たい。紙漉きは寒 漉きと呼ばれる冬の寒い時期に漉 かれたものが特に上質といわれて いる。水に雑菌が繁殖しないから原 料が腐らず、質の良い紙が漉き上が るのである。とりわけ生紙と呼ばれ る真っ白な紙は冬場しか漉くこと ができない辛い仕事である。上川崎 にはかつて三百戸以上の紙漉き農 家があったという。いまその伝統を 受け継ぐのはほんのわずか。それだ けにひときわ愛しい思いが募る。