ふるさと昔話 2 - 026/066page
毘沙門さまの話
裏新田と表新田のあいだの毘沙門さまのところには、松の老木がいっぺえあったんだと。昼までも、ここを通ったときには、うす暗くて気味がわるかったんだと。
ずっと遠いところからも、空にそびえた松林がわかったといわっちゃほど、でっけえ松があったんだと。いわきに旅した人が帰えってくっとき、三春からもこの松林がみえたんだと。
ある時、村の人が、夜、このうっそうとした松林をとおった時、まっくらい林の中から、何だかわかんねえが「トビスコン、トビスコン」という動物の鳴き声ではねえが、めずらしい声が聞こえたんだと。
村の人は、おっかなくなって、いそいで逃げたんだと。それから夜になっと「トビスコン、トビスコン」という声が聞こえるようになったんだと。
たまたま、気の強い、勇気のあるものが、ある晩ここを通ったんだと。
やっぱり、「トビスコン、トビスコン」という声が聞こえたんだと。
この勇気あるものは、「トビツクならトビツケ」つて、通りすぎっぺとしたんだと。
そしたら、何かにとびかからっちゃんだと。とびかからっちたまげたが、そのまま通りすぎたんだと。
つぎのあさ、何にとびかからっちゃかたしかめっぺと、勇者はゆうべの松林に行ったんだと。
松林には、一面に「けんぎゅう、さんご」がちらばって、キラキラとかがやいていたんだと。ゆうべとびかからっちゃのは「けんぎゅう、さんご」だったんだと。
それからは、この毘沙門さまは、ぜにのかみさまっていわっち、おまいりすっと、金持ちになれるっていう信仰がさかんになったんだと。
旧正月のはじめてのとらの日のとらの刻におまいりすっと、金持ちになるってゆって、おまいりする人がふえたんだと。
今では、むかしの老木もなくなって、イチョウの老木が一本のこっているだけだと。おまいりする人もいなくなって、さびれたということだ。
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