ふるさと昔話 2 - 038/066page

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  妙見山の天狗のウチワ(一)

 

 むかし、むかしの話です。町守屋村のお寺に、法念という小僧さんが住んでおりました。
 法念は、毎朝五時に起きて、裸に水をかぶって身体を清めてから、うら山の妙見山へ八百メートルノ山坂道を登ります。
 山の頂上には妙見様が祠(まつ)られた神社があります。法念が山頂に着く頃には、丁度東の空からピカ、ピカとすばらしい朝の太陽が「お早よう!」と顔を出します。

 法念はこの太陽に向かって「今日も暖かい、好い日で、みんなが幸福にくらせますように」と手をたたいてお祈りしてから、妙見様に向ってありがたい般若心経(はんにゃしんきょう)を声たからかに読みあげます。

 ところが今朝は、神社の中から「うーんうーん」と、いかにも苦しそうなうめき声がきこえますので。屏(とびら)を開けて中へとび込んでみると、これは、これは、一本歯の下駄をはいた、高い鼻の六尺以上もある大男が顔を真赤にしかめ、両手で腹を押えて、もがき苦るしんでおります。から、これは大変気の毒と、法念は、寺に伝わる秘伝の妙薬「宝金仙丹」という丸薬を飲ませてやり、ありがたいお薬師さまのご真言を「おんころころ、せんだり まとうぎ そわか」「おんころころ、せんだり まとうぎ そわか」「おんころころ、せんだり まとうぎ そわか」と十回唱え終らない中(うち)に病気は治ってしまいました。「わしは妙見様に仕える天狗だよ。今朝はどうもありがとう!お礼に天狗の 羽根うちわ をあげよう。この うちわ は、とても不思議な うちわ で、なんでもきいてくれるぞ」と法念にくれました。

 そこで法念は妙見山の頂上で天狗のうちわで自分の身体をパッタパッタとあおぐと綿のようにふわり ふわりと空中に舞い上り、自分の思う方向へ自由自在に飛びまわることができます。これは本当に不思議だ面白いぞと、そちらこちらを飛びまわりました。

 あ〜長沼の城山の花だ、あれは桙衝(ほこつき)の鹿島様、これは乙字が滝、ここは須賀川町だそしてこの下は今泉の館山の桜だ…と、法念は近くを一周して町守屋の寺にかえりました。


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