わたしたちの鮫川村-055/109page
「みなさん、よくお聞きください。」
わたしは、もとよりこの池の主でしたが、なんとなく浮世に出てみたくなり化身して中野のむすめになりました。けれども、わたしはどうしてもこの池に、帰らなければならない身の上です。みなさまがたにはたいへんお世話になりました。このご恩はけっして忘れません。どうかお帰りになったら中野の父母にもよくお伝えくださいませ。」
両目になみだをうかべ、黄金の鮫はこういい終わると、すっと、水の中に入って、そのまま、すがたを消してしまいました。池はもとの無気味な静けさに、かえってしまいました。
おとものものは、鮫のすがたが消えると、長者の家に飛んで帰り、このてんまつを長者夫婦かたに語りました。
長者夫婦は、愛するむすめをうしなったかなしみと、不思議なできごとに、おどろき、なげくばかりでした。が、やがて、気をとりなおし、今まで紀美がねていた床をしらべてみると、そこには、光まばゆい三片の黄金のうろこが落ちていました。このうろこは、まさに紀美の化身していた黄金の鮫のうろこでした。
このことがあってから、この池は、村の人びとから、鮫池とよばれるようになりました。
その後、長者夫婦の家は代々栄え、長者夫婦がなくなると、鮫はこの池を出て、川を下って、竹貫を通って、いわきの海にいったそうです。
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