北会津村の文化財第23集 -002/027page

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白山沼のイトヨ

山 中 實(喜多方市イトヨ研究家)

 都市や農村地域、山地などの開発で、野生生物は生息環境から追われ るように数を減らしている。北会津村には、昔から湧き水が豊富な池が 各地にあり、そこにイトヨの泳ぐ姿が見られた。地元では「トゲチョ」 と呼び親しんでいる小魚であるが、近年の農地整備や河川改修、地下水 の揚水などで、その生息環境の悪化、湧水枯渇などで、一時は絶滅の危機にひんした。
 北会津村では、イトヨ保護に取り組み、昭和51年5月4日に「白 山沼イトヨ生息地」として福島県指定の天然記念物となった。
 昭和63年5月7日に「頭無清水イトヨ生息地」を北会津村指定の 天然記念物として生息環境を守っている。

1.イトヨの形態と分類

 イトヨは、トゲウオ目トゲウオ科に分類される小さな魚である。イト ヨは、ガステロステウス (Gastetosteus) の一種として分類される。種 名は、アクレアーツス (aculeatus) の学名がついている。属名のガス テロステウスは、腹部の骨の意味で、トゲウオ類に特有の腹棘を支えて いる骨を指しており、種名のアクレアーツスは棘を意味している。
 学名にもあるように、イトヨは背中に三本と腹部に一対の棘をもち、 しりびれの直前にも小さな棘が一本ある(図1)。背中と腹部の棘は、 鋸歯状になっており、かなりごつい感じを与える。背中の棘は頭に近い 二本は長く、背びれの前の一本は短い。いずれの棘にも三角形のひれ膜 がついている。
 胸びれは大きく目立つが、棘はなく十本の軟条で構成されている。腹 部の一対の棘は、腹びれで、よく見ると一本ずつの軟条あってひれ膜で 棘とつながっている。しりびれは一本の短い棘と8〜11軟条からでき ている。もうひとつのひれである尾びれは、12本の軟条からできてい る。
 トゲウオ類には、コイなどのような鱗がなく、骨質の鱗板(りんばん) をもっている。この鱗板は、背中と体側各一列にあり、背中の鱗板は6 個ほどあって背中の棘を支えているが、数は必ずしも一定ではない。
 体側には、大きな鱗板がl列あって、よく目立つ。この鱗板数は大き く変異し、生息場所や生活型と麟板数の関係はイトヨ研究の主要なテー マとなっている。
 体側の鱗板数から、イトヨは大きく次の3つの型に分けられる。

 完鱗板型・鱗板が鰓の後方から尾柄部まで配列している。北会津村産 など
 中間型・体の前部にのみ鱗板をもつ。
 少鱗板型・体の前部にのみ鱗板をもつ。

 変異は、鱗板数や大きさだけではなく、棘の長さ、棘の鋸歯の程度な どのさまざまな形態にみられ、また生態にも現れる。


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