北会津村の文化財第23集 -003/027page

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2、イトヨの地理的分布

 イトヨは、北半球の北緯35度から70度の範囲に広く分布している。生 活史のタイプから大きく二つに分けることができる。一つは海を生息場 所としており、産卵のため淡水域に遡上してくるタイプで、遡河回遊型 または降海型とも呼ばれているものである。このタイプは長い棘と、頑 丈で大きく完全にそろった鱗坂をもち、イトヨの原タイプと考えられて いる。もう一つは、淡水域で生活史を終えるタイプで、陸封型と呼ばれ ているもので、これは、一般に体が小さく体長に対して体高が高い ずんぐりとした体形をしている。そして棘も短く、鱗板も不完全な少鱗 板型や中間型であることが多い。
 わが国では、降海型は日本海側では島根県浜田市付近から北に、太平 洋側では利根川以北に分布している。
 一方、陸封型は、従来福井県大野市・栃木県那須地方、福島県会津盆 地の三か所に分布し、滋賀県の琵琶湖東部と愛知県・三重県・岐阜県に またがる濃尾平野には、別亜種のハリヨが分布するとされてきた。現在 は、これに加えて、北海道に数か所、東北地方に十和田市の一か所、新 潟県の信濃川にも陸封型のイトヨの生息することが確認されている。 (図2)
 大野市と会津盆地の陸封型イトヨは、完鱗板型、部須地方のイトヨは 完鱗板型に一部中間型を含み、ハリヨは少鱗板型に一部中間を含む構成 になっている。

3、イトヨの生息場所と生態

 降海型のイトヨは、早春から初夏にかけて淡水域に遡上し、産卵する。 営巣、産卵の場所は、流れの速い大きな河川の中ではなく、河川敷にあ る細流や水溜り、流れの緩い小川などである。孵化した仔魚は、しばら く巣の近くですごすが、水温が上昇する夏前には群れをなして海へと下っ てゆく。
 一方、陸封型のイトヨの生息地は、流れの比較的緩い河川や湖沼であ るが、大野市、那須地方、会津盆地、ハリヨの生息地とも湧水のある河 川や池沼に限られている。湧水のある河川や池は、年間をとおして水温 が一定であり、常に水草が繁茂した状態にある。このような場所は、食 物となる小動物も多く、また捕食者からの隠れ場所としてもすぐれたと ころである。
 湧水のある生息地は、水温が安定しているためか、営巣、産卵時期は 春から夏にかけて長期にわたっている。
 産卵行動は、(図3) まず雄による産卵に適当な場所をなわばりとす るところからはじまる。ゆるい流れの川岸や水草の根もとなどにつくら れる。その広さは、40セソチメートルから1メートル四方くらいを確保 する。その領域に侵入するものがいると、激しく攻めたて、すべての棘 を立て、口を開いてかみつくように突進する。この場合、赤い婚姻色の 雄に激しく、むかっていく。
 雄のなわばりが安定すると、巣づくりにかかるが、まず大きな胸びれ で、なわばり中央部の泥やごみをはらいのけることをする。そして、逆 立ち姿勢で、砂泥をロに含んで、なわばり外に運んでは、バッとはき出 すことをくり返し、やがて、ほぼ8×8センチメートル、深さ2・5セ ソチメートルの凹地をつくる。この凹地に、巣の材料の水草などの繊維 を口にくわえて運び重ねる。その材料を固定するために、口で強く押し つけたり腎臓から粘液を出して接着する。巣が完成する頃になると、巣 にもぐるようにして、トンネル状の産卵床をつくり、巣をかくすように 砂を重ねる。出来上がった巣は、砂をかぶり目につきにくくなるが、大 きな穴の入口と出口の小さい穴が見える。
 雄は、卵で大きい腹をした黄金色の雌を誘いに何度も近寄ってむかい


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