北会津の昔ばなしと伝説 -068/238page

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 「ワンワン。ウゥ。ワンワン。」

と、吠(ほ)えたんだど。今にも、鎮守様(ちんじゅさま)に飛びかかろうとしたんだど。

 そしたら、鎮守様(ちんじゅさま)はびっくり仰天(ぎょうてん)逃げ出したんだど。

 何しろ、今みでに、街灯(がいとう)がある訳でなく、淡(あわ)い月に光はあっても、家々の軒下通路(のきしたつうろ)だから、足元に何があるか見極(みきわ)めるゆとりなんかある訳もなく、めくらめっぽうに走ったんだど。

 ところが、土蔵(どぞう)の礎石(そせき)につまずいて、のめって目の前にあった井戸の中にまっさかさまに、

 「ドポーン」

と落ちっちまっただど。

 ようやく、井戸からはいあがった鎮守様(ちんじゅさま)は、ずぶぬれになり、裸足(はだし)のままで社(やしろ)に帰っただど。

 冷え切った体を、暖(あたた)めようと、こたつに入りながら、

 「いまいましい犬め、それに、土蔵(どぞう)がなければ……。井戸もだ。大体、井戸があるから、


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