塩川町勢要覧 -014/030page

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風を熾す人

塩川には、ひたむきな情熱を心に秘めた人がいる。
万有を土に還し、万物を火に映し出す陶芸家。農業の新たな可能性に挑戦する人。町の歌の浸透に取り組む親子。塩川商人の心意気をのれんに受け継ぐ商店主。
自らの情熱と信念に真っすぐに向うその姿は、見る者の心を強く打ち、その熱い思いはやがて一陣の風となって塩川の町に吹きわたる。
塩川には人々の心を魅きつける、清新な風を熾す人がいる。

風を熾す人。interview.1

雄国山から生れる一重陶器の世界。

一重孔希さん
一重孔希さん Kouki Ichiju
塩川は、会津の中央にある、いい臍(へそ)の町だと思います。特に町の中央に川が流れているところが好きです。この澄んだ流れがずっと保たれればいいですね。

 雄国山麓の高台にある一重孔希さんの陶房。なだらかな傾斜のある広い庭に足を踏み入れると、素焼きの陶仏たちがあちこちから顔をのぞかぜていた。驚くのはその数、数、数。「いったん始めると一日に千体ぐらいは造リます。これまでに、もう三万体は造ったと思います。ガレージがいっぱいで、置く場所がなくて」そう言って、一重さんは笑った。

 一重さんが雄国山麓の唐沢地区に登り窯を築いたのは今から二十年前。「車の音を気にすることなく、自然のなかでものが作れるというのは最高に幸せなことだと思います。安らぎを感じますね」。陶房から見える町の風景や四季の色彩、虫や鳥の声、風の音は作品のなかに生きていると一重さんは言う。「この辺りは、雪景色もまた格別なんですよ」、塩川の美しさを本当に嬉しそうに語る姿が印象的だ。一重さんは、陶仏の他にも、会津の雪景色のように美Lい白磁器を中心とした陶器や、狛犬など、魅カある作品を数多く製作している。陶芸の魅カとは、と尋ねると「火と粘土のもつ無限の可能性ですね」とまっすぐなまなざしで答えた。

 また、十年ほど前からは、毎年夏に陶房の庭で音楽コンサートを開催Lている。「いい音楽を聴いて、旨い酒を飲む。ただそれだけのきっかけで始めたんですよ」。一重さんの一言一言は、どれも肩のカが抜けていて、それ自体が心地よい音楽のように聞こえる。「最初のうちは京京周辺からのお客さんが多かったんです が、最近になって地元の人が増えてきました。とても嬉Lく思います」.Lの笛を中心としたコンサートを、十年目でひと区切りとし,最近では中国の胡弓、シヤンソン、インド音楽など、そのジャンルは一層広がつている。さらには海外の作家と の展覧会を開催するなど、エネルギッシュな活躍を続けている。

 陶芸を愛し、酒を愛し、音楽を愛し、そして塩川を愛する一重さんは、なん とも魅カ深い人である。

雄国山のアトリエ
雄国山のアトリエで陶器の製作に取り組む一重さん。手のなかで、土は静かな生命体へと姿を変えてゆく。

一重陶房から生み出された陶磁器
会津の雪のように白く澄んだ白磁器をはじめとする、一重陶房から生み出された陶磁器の数々。


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