塩川町勢要覧 -015/030page
風を熾す人。interview.2
夢と情熱を賭けた有畜複合農業への挑戦。
湯浅 英明さん Hideaki Yuasa
塩川のいいところは、山の新緑や紅葉など、四季の自然の変化がはっきり見えるところですね。交通の便は良いし、自然災害も少ない住みやすい町です。「食料を生産している喜びが私にはあります」。はっきりとした口調でそう語った湯浅さんのまなざしには、農業という仕事に対する強い信念と誇りが感じられた。
姥堂地区で専業農家を営む湯浅さんは、水稲五・八ヘクタール、肥育牛三十四頭を利用した、有畜複合農業に取り組んでいる。有畜複合農業とは、水稲と畜産が結び付いた、昔ながらの農業のスタイルだ。田圃から刈り取った稲ワラを、牛の胃を通し、厩肥として田に戻す。また、籾殻は拾てずに牛舎の下敷きとして利用する。つまりは、有機質還元の考え方に基づいた農業である。「私は『適地適産』という言葉にこだわりたいと思っているんです。なぜならそれは、昔からこの地で伝統的に受け継がれてきた先人の選択とノウハウがすべて蓄積された方法だからです」。いったん刈り取った稲ワラを田に立て直し、干す。その後、ワラを牛舎に運び、今度は積み替えの作業。農業の兼業化とともに作業時間の短縮、効率化が進んでいる現在の農業形態から考えれば、はるかに手間のかかる作業である。湯浅さんは言う。「私のやり方はいつか行き詰まってしまうかもしれない。けれど、もしかしたらその価値が認められて、若い人たちが食料を作るこの仕事に戻ってくるかもしれない。これは、私自身の賭けでもあるんです」。
それでも、天候しだいの仕事であるため、無事に収穫を迎えられるかという不安は常に心につきまとう。稲や牛の成長にとって、天候の良し悪しは非常に重要な問題である。水稲は一年一作であり、一頭の牛を市場に出荷するまでには、二年近くの時間を要する地味な世界なのである。「だから、米が不足と言われながら、実際ごはんにすると余ったり、今人気のミネラルウォーターと牛乳の値段が同じであることには、いささか憤りを感じます」と湯浅さんは言う。
では農業をやっていて嬉しいことは、と尋ねると、湯浅さんは待っていたかのように農業の喜びを饒舌に語り出した。「額に汗して、太陽の恵みを受けるこの仕事は喜びも多いですよ」。そう笑った湯浅さんの目には、農業に対する情熱と熱い意志がみなぎっていた。