塩川町勢要覧 -017/030page
風を熾す人。interview.4
鮮やかなのれんは商人の誇りの表れ。
佐野 弘治さん Kouji Sano
塩川は自然のきれいな、落ち着いた雰囲気の町。幼い頃から慣れ親しんだ日橋川の澄んだ水の流を見ていると、心が和んでゆく気がします。商店街にある呉服店「さのや」の軒先に張られた大きなのれん。雨の日も雪の日も、朝から晩まで張られているはずののれんには、塵ひとつ付いていない。そのあまりの鮮やかさに驚きながらのれんをくぐると、商売人らしい粋な法被姿の佐野さんが迎えてくれた。
佐野さんは、大正十年創業の「さのや」の三代目にあたる。「のれんは、日よけや看板としての意味だけではなく、商店主の誇りでもあるんです。ですから、店の顔であるのれんの状態には気を配っています」。日光に当たり、雨に打たれるのれんは、次第に色が落ち、変色してしまう。そのため、佐野さんの店では、定期的にのれんを変え、そのつど、新しいのれんのデザインも自分で考えている。「お客様を、誠実で心のこもった接待で迎え、お客様に喜んでもらえる商品を提供する。ただ物を売るだけではなく、お客様との絆を大切にすることが、私の商売人としての心意気です」と佐野さんは言う。
昭和五十八年に商工会が中心となってスタートした「屋号とのれんの街づくり」。この活動をさらに活発に行っていくため、平成五年に塩川のれん商業協同組合が発足。佐野さんは、組合の発足当時から理事長を務め、のれんの町づくりに力を注いできた。組合では、共通商品券の発行やのれんスタンプの活動、川の祭典など、町のイベントとの積極的なタイアップを通して、のれんの町の浸透に努めている。
しかし、後継者の不足は、塩川の商店にとって非常に深刻な問題である。「稼業を続け、のれんを守っていくことは、のれんの町づくりにとって重要なことです。今後は、後継者の育成に力を入れていきたいと考えています。そもそもこの組合が発足するきっかけとなったのも、商工会を中心とした若い人たちの熱心な働きかけがあったからなんです。そうした若い後継者たちとのつながりを大切にしながら、これからは、のれんに対する愛着と理解をさらに広げていきたい」と語る佐野さん。経験と伝統に培われた商人としての心意気と情熱、店先の鮮やかなのれんは、佐野さんそのものに感じられた。