わたしたちの郷土楢葉町 楢葉町小学校社会科教師用資料 - 110/110page
伝説 沼沼の大蛇
楢葉町大字上小塙の木戸川添えの国有林内に「沼」と呼ばれる所があり、そこの小沼は50平方メートル位の面積で、雨季には湛水し、乾季には涸渇している。昭和10年頃、近くに東北電力の木戸川発電所が建設され沼周辺の環境は多少変わったが、今なお淋しい仙境で、その昔清冽な木戸川が滔々と流れ、原始林がうっ蒼と影をおとしていた時代は俗人の立寄り難い神秘の域であったろう。
その昔、沼沼の主として大蛇が住んでいました。神さまのお使いだったのでしょう。その頃の木戸川は、滔々と流れ洪水も渇水もなく、流域の村々は、五穀豊穣で鮭や鮎も大型のものが沢山とれたということです。秋ともなれば鮭漁の漁師が「大(やす)をかついで木戸川べりの屏風岩をへぐり山のおねを越えて毎日漁をしていました。いつものように大をかついで漁に出た漁師が扇平(おおぎぴら)という所で山道をふさぐようにして寝ている大蛇にあった。おどろきと恐怖で顔色もなく、しばらく息を殺してうかがっていたが、大蛇は少しも動かなかったので、そこをさけて通りどうにか漁場につきましたが、一日中大変気がかりで、その日はとうとう一匹の漁もありませんでした。
夕方になり、扇平まで帰ってきました。どうしたことでしょう。大蛇は相変わらずの姿で道をふさいで寝ていました。漁師は何度かためらいましたが勇気をふるって大に渾身の力をこめて大蛇の頚元めがけてぐざっと突き刺しました。とたんに稲妻が走り、雷鳴が轟き、山雨が襲来し、その中を大蛇は頚元に大を突きたてたまま、川のように鮮血を流し、郭公(ほととぎす)山頂へ姿を消していきました。物すごい山鳴りをひびかせながら・・・。
恐怖で顔色を失った漁師は、やっとの思いで家に着きましたが、そのまま寝ころんでしまいました。家人の手厚い看病の甲斐もなく熱は高くなるばかりで、うわ言を言いながら他界してしまいました。
そのことがあってから、沼には大蛇の姿が全く見られなくなり、沼も涸上り、木戸川は時折り洪水になったり渇水したりするようになり、魚も豊かでなくなったということです。
(高木良枝・夫太郎)