機関誌第7号「AMFNEWS」 -001/007page

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AMF MARINE SCIENCE
海洋の科学

リボンスズメダイの繁殖研究

Breeding blue ribboned demoiselle
 Nepomacentrus taeniurus by Akira Komoda

親と子は、別人みたい?(変態)

リボンスズメタイ(孵化直後の仔魚)
▲リボンスズメタイ(孵化直後の仔魚)
 Newly hatched larva
学名 Neopomacentrus taeniurus

 水族館の展示水槽では、飼育環境が整うと水槽内で生物が繁殖することがあります。飼育下で繁殖が成功することは、飼育係員にとっては究極の喜びです。それは飼育技術が確立した証だからです。仔稚魚(孵化してからヒレの構造が親と同じになるまでを仔魚、それ以降を稚魚という)の観察結果は、仔稚魚の分類学に大きく責献できる価値ある資料の1つとなります。

 仔魚は、小さいものばかりで、その形態は、親魚の姿とずいぶん異なります。親と同じ形に変化することを変態"といいますが、魚の場合、その変化の著しいものがあります。

繁殖・育成の挑戦

リボンスズメタイ稚魚(孵化後約2ケ月)
▲リボンスズメタイ稚魚(孵化後約2ケ月)
juvenile after hatching about 2 months

 リボンスズメダイは当館オープン2年前(平成10年9月)から飼育していましたが、産卵が確認され、仔魚を水槽内から採取することができました。
仔魚育成上の大きな問題は餌です。孵化して1週間経過しても体長は4mm程度です。この小さな口に入る生きた餌を用意する必要があります。
その仔魚の飼料はシオミズツボワムシ(以下ワムシとします。)という小さい生きた餌ですが、リボンスズメダイの場合はワムシが大きすぎて仔魚が食べることができません。

 そこで普通、仔魚の育成は産卵した水温と同じ条件にしますが、水温を少し高めに設定して、水槽内にワムシを繁殖させ、生まれたばかりのワムシの幼生が餌になるように工夫しました。

 また、観察結果から他の仔魚と比較してかなり遊泳力が強いため、今までの仔魚育成水槽より格段に大きな水槽を用意しました。

 このように、今までと少し違った方法で飼育管理したところ、やっと仔魚の育成に成功しました。

発見と意義

リボンスズメタイ稚魚(孵化後約3ヶ月)
▲リボンスズメタイ稚魚(孵化後約3ヶ月)
Juvenile after hatching about 3 months

 魚の初期生活史 (孵化してから稚魚まで)は、あまり馴染みのない世界です。しかし、めまぐるしく変態していく様子は、なかなかおもしろいものです。

 水族館は、多種多様な生物を飼育しています。研究材料は山ほどあり、新しい発見は心が躍ります。

 繁殖研究の意義は、単に生産するだけではなく、生物の生活史を知ることにより、命の尊厳を知ることのできる一面もあると思います。

 今回成功した、リボンスズメダイの繁殖育成は、係員の努力のたまものです。挑戦と発見のなかに、次の新しい展示の糸口が見つかるかもしれません。

 いつまでも、カリスマ的な生物種を求めるには限界があります。もう少し基礎研究を評価し、挑戦することが必要だと思います。

 親魚は滋賀県立琵琶湖博物館より分譲されたものです。仔魚の育成は東海大学海洋研究所の田中洋一先生にご助言いただきました。ここでお礼申しあげます。

 (環境展示課 薦田 章)


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