福島県植物誌 -027/483page
福島県の植生
I 福島県に関する森林帯
1)はじめに
温暖で,しかも海洋性の多雨気候下にあるわが国では,気候的極相は森林になる。しかし,北 海道から沖縄まで南北に長い日本列島では温度条件に明らかな傾きがある。この傾きに沿って気 候的極相の内容にも傾きがみられ,針葉樹林から常緑広葉樹林(照葉樹林)までいくつかのタイ プが識別されている。これら各タイプの森林の分布は東西にのびた帯状の分布を示す。似たよう な群集傾度は標高に沿ってもみられる。
本多(1912)によれば,これら森林帯の水平的 帯序は,北から順に,常緑針葉樹林帯,落葉広葉 樹林帯(夏緑樹林帯),そして常緑広葉樹林帯とな る。また垂直的帯序は,下から順に,丘陵帯,山 地帯,亜高山帯,高山帯となる。丘陵帯は常緑広 葉樹林帯と,また山地帯は落葉広葉樹林帯と同一 である。亜高山帯は北海道については常緑針葉樹 林帯と同一であるが,本州や四国では内容的に若 干異なる。しかし,タイプとしては同一とみなす ことができる。
さて,福島県がこの帯序のどのあたりに位置し, どのような気候的極相を持つかということである が,この点についてはさらにくわしく実態の把握 が必要である。上記の帯序からすると,福島県は常緑広葉樹林帯と落葉広葉樹林帯との境界に位 置する。しかし,上記の帯序論では,落葉広葉樹林とは具体的にはブナ林であり,常緑広葉樹林 とはスダジイやアカガシ,ウラジロガシなどの林である。福島県においては,明らかに気候的極 相とみられるブナ林は一般には標高約800m以上の高所に現われ,またシイ・カシ林は海岸平野, および阿武隈山地東麓の標高せいぜい100mまでの一帯にみられる。したがって上記の森林帯論 からすると,福島県の大半を占める標高100mから800mの地域が境界領域に入ってしまう。つ