福島県植物誌 -028/483page

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まり,本多(1912)にみられるような大きなス ケールの考察では福島県の植生はほとんど語れ ないことになる。ともあれこの段階で明らかな ことは,福島県が常緑広葉樹林帯と落葉広葉樹 林帯の境界部に位置するということである。

 垂直的帯序についてはさらに問題がある。上 記の帯序からすると,明らかな丘陵帯は標高お よそ100mまで,明らかな山地帯は800m以上 となる。またその上の亜高山帯は本州ではアオ モリトドマツ林に代表され,その存在は奥羽山地では明瞭で,標高1,500m以上に拡がる。しかし 豪雪の越後山地ではアオモリトドマツの自生はなく,亜高山帯の標識は明らかでない。高山帯に ついても問題がある。高木林がみられなくなる所を森林限界というが,そこから上を高山帯とす ると,その存否や標高は山によって,また同じ山でも方位によってさまざまである。例えば東吾 妻山における森林限界は西面で約1,900mのところにあるが,東面では1,970mの頂上直下にせ まっている。また,隣接する西吾妻山では2,100mの頂上に到っても,なおアオモリトドマツ林の 繁茂をみる。恐らく,福島県の高山にみられる高山帯は気候的なものではなく,山頂現象にもと づく地形的なものであり,真の高山帯とはいえないものであろう。なお,多雪山地の亜高山帯に ついては石塚(1978)の抄録があるので参照されたい。

図14 東吾妻山の山頂部北面 ハイマツ群落の下にアオモリトドマツ林が広がる。
図14 東吾妻山の山頂部北面
   ハイマツ群落の下にアオモリトドマツ林が広がる。

2)気象資料からみた中間温帯

 気候的極相として常緑広葉樹林の成立する森林帯は,気候的には暖温帯(暖帯)と呼ばれ,同 じく落葉広葉樹林の成立する森林帯は冷温帯(温帯)と呼ばれる。しかし,前述のように,常緑 広葉樹林の指標であるスダジイと,落葉広葉樹林の代表であるブナとは必ずしも分布が接してお らず,かなり離れていることがある。この,いわば中間温帯に想定される気候的極相はあまり明 確なかたちのものではなく,地域によって異なる雑多な森林であり,概して中間温帯林などと呼 ばれている。

 吉良(1948,1949)は,スダジイの分布の北限とブナの分布の南限は概して一致し,それがま た温かさの指数85の等値線と一致することを見出した。温かさの指数とは,各月の平均気温のう ち,5℃以上のものだけについて,それぞれから5を引いた値を積算したものである。温かさの指


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