福島県植物誌 -033/483page
れるが,飯豊山のものはアオモリトドマツを含まず不明瞭である。とくに高山帯については,そ れが気候的なものと考えられない以上,高山帯ということばを用いる妥当性については疑念があ る。
II 主な気候的極相林
1) はじめに
福島県の山野は,前にものべたように,古くから人びとによる利用が盛んで,自然の植生はか なり少ない。そのなかでとくに気候的極相のようすをみせるものは非常に少ない。その少ない林 分も,近年における諸種の開発によって失われた例も多いようである。良質の林分はきちんと行 政的に保護すべきであるが,人びとのそれらの価値についての理解はまだまだ浅く,保護的な措 置は極めて困難な状況にある。以下,福島県内に知られる気候的極相がどのような植物から成る か,かんたんに解説してみたい。
2)常緑広葉樹林
イ) スダジイ林
前述のように,石城海岸低地の気候的極相はスダジイ林である。しかし,現存する林分は少な い。5例ほどを表2にまとめてみた。いづれも立地の傾斜はかなり急であるが落差は小さく,土壌 も安定しており,気候的極相を示しているとみてよいであろう。植物社会学的にはスダジイーヤ プコウジ群集に属するが,福島県のスダジイ林は分布北限のため簡素な組成をもち,ホルトノキ, ヒメユズリハ,イズセンリョウ,ツルコウジ,コバノカナワラビなど同群集の多くの標徴種を欠 く。
なお,スダジイ林の残存林分で行政的に保護されているものには県指定天然記念物である「上 平窪のシイノキ群」(いわき市平上平窪字横山,昭和28年10月1日指定)がある。しかし,これ は墓地外縁のスダジイの囲垣のようなもので,森林のサンプルとはいえない。直接的な指定では ないが,天然記念物「賢沼ウナギ生息地」(いわき市沼ノ内,昭和14年9月7日指定)の沼の周 囲の自然林の方が森林のサンプルとしては良質である。また,石城地区よりはずっと北寄りにな るが,県指定天然記念物「初発神社のスダシイ樹林」(原町市江井字西山,昭和44年4月11日指 定)も分布北縁のスダジイの成育状況を示すものとして価値が高い。