福島県植物誌 -032/483page
帯林地帯は,東部では標高700〜800mにあるが, 西部では本来の温帯落葉広葉樹林帯の下限である 標高400〜500mまで低下すると概括できよう。 そして,東部地区の標高400〜500mから700 〜800mまでの間でもブナはまったく成育しない のではなく,地形的に条件のよい所(恐らく,霜 害のおこりにくい東〜北斜面)では局部的に優占 林分を形成することがあると考えられる。
ハ)中間温帯林の代表種
前述のように,福島県ではシイ林地帯とブナ林 地帯との間に標高差にして600〜700mもの ギャップがある。このようなギャップは中部日本の内陸部を中心として広く知られている。吉良 ほか(1976)によりば,それは図17のようにまとめられる。この図を福島県についてみると,ギャッ プを埋める代表的な植生はモミ・イヌブナ林ということになる。しかし,福島県での実態をくわ しく吟味してみると,それは必ずしもこの従来からの考えを支持しない。
図17 日本各地の垂直的植生帯の冷温帯・暖温帯境 界付近の構造(吉良ほか 1976より)
指標植物の分布帯によって示す。WI,CIは 暖かさの指数,寒さの指数の軸をあらわす。阿武隈山地には,自然林として多くのモミやイヌブナの林分が確かに残存している。しかし,丹 念に検討してみると,その多くは土砂防備保安林として急傾斜の立地に残されたものであり,そ れらはむしろ地形的極相を示唆するものであり,恐らく気候的極相とは異なる。気候的極相につ いての論説は樫村(1974a,1978,1980,1984)にゆずるが,結論としては,それはこの地域に二次 林として一般的なコナラ林とそう違わないものと考えるのが妥当のように思われる。
4)福島県森林区の区分
以上の考察結果をまとめ,福島県にみられる気 候的極相の各タイプの分布域から森林帯をわり出 してみると図18のようになる。ただし,図中の高 山帯は,前にものべたように,はっきりしたもの ではなく,山頂現象にもとづくものである。また 亜高山帯も,はっきりしたものは吾妻山塊,那須 山塊,及び尾瀬の燧ヶ岳を中心とした一帯にみら