ふくしま文学のふる里100選-013/30page

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ふくしまの大衆文学
「座頭市物語」(C)大映「座頭市物語」(C)大映

9 からす組
大仏次郎
小説  昭和四年(一九二九)

 戊辰戦没直前の慶応四年、仙台藩士細谷十太夫は同僚箕作を斬り、上司の計いで会津探索隠密となる。仇討のため箕作の妻と弟が十太夫を追う。十太夫は彼を慕って集まってきた侠客たち数十名をもって「からす組」を編成し、須賀川の柏木屋を本陣として薩長軍に対し果敢なゲリラ戦をいどむ。これに箕作の妻、弟の仇討行のこと、官軍方の密偵お兼のことなどがからむ。戦況不利となり、からす組は解散し、十太夫は新生活を志して仙台を去る。

 早乙女貢にも同名の小説(昭63)があり、戊辰戦の展開に詳しく、十太夫の活躍の舞台も福島・郡山・須賀川・矢吹・白川・棚倉・三春・相馬と広がる。最後に十太夫は仙台の寺の住職、西南役の志願兵となった後明治四〇年大往生を遂げたとある。

11 さくらんぼ大将
菊田一夫
脚本  昭和二六年(一九五一)
さくらんぼ大将
 「福島県伊達郡茂庭村……といえば(中略)飯坂温泉から15キロばかり、山みちをのぼって行った、静かな村である」で書きはじめられたこの作品は村の六郎太少年が豪放磊落な蛮洋先生に連れられて、全国を薬を売りながらあるく物語である。NHKラジオドラマで昭和二六年一月から翌二七年三月まで放送され大好評であった。主題歌の作曲は福島市出身の古関裕而が担当。

 茂庭村は福島市に編入され、いまは巨大なダムが建設されようとしている。

20 天狗廻状
半井桃水
小説  明治四〇年(一九〇七)
天狗廻状
 寛延二年(一七四九)の米大不作の折、信夫、伊達両郡六八ヵ村の農民が、桑折代官所を相手に年貢減額を求めて一揆を起した。惣代の一人は長倉村組頭の彦内だった。この史実を小説風に書いたもの。

 伊達町有志は半井に感謝状を贈ったほか、現在でも彦内を義民として顕彰している。

39 座頭市物語
子母沢寛
随筆  昭和三六年(一九六一)

 天保の頃の渡世人座頭市は、盲人ながら居合抜きとさいころ賭博の達人で勝新太郎主演の映画、座頭市シリーズで一躍人気を集めたが、この奇抜なキャラクターは子母沢寛の随筆集『ふところ手帖』収載の短編「座頭市物語」から生れた。卑劣なやくざと手を切った彼は愛妻のおたねと共に姿を消し、その後の消息は「何でも遠く岩代の安積山麓猪苗代湖の近くの小高い丘の辺りに住んだともいう。おたねは、湖に映る明月の夜を、座頭の妻として悲しんだかどうか」。郡山市湖南町には、この座頭市を連想させる人物が住んでいた屋敷や、彼が湖岸の絶壁の間道で何者かに突き落とされたという座頭転ばし七曲がりの道についての伝説が、今も語り継がれている。

58 姿三四郎
富田常雄
小説  昭和一七年(一九四二)
姿三四郎
 「十七の時、会津から出て来て、この一年の間は辻俥の車夫をして苦学したという、まだ二十歳の青年の濁らぬ眼の色や、紅い唇、整った顔だち、ことに、その濃い眉とつやのある髪の毛が大きな魅力となってお幸を牽きつけた」と主人公姿三四郎は描かれている。お幸は三四郎の下宿するそば屋長寿庵の後家、三四郎にはお幸は四つで母を失って十二まで父の男手で育ったので母に近い女としてなつかしさを感じる。彼は敵対する柔術家村井半助の娘乙美に恋心を抱く。明治日本の近代化の中で激しく揺れ動く社会を背景に、古い柔術に対し伝統を守り近代的武道として柔道を確立する帝大学士の矢野正五郎の日本伝絋道館に入門した三四郎、新しい技山嵐で活躍する。三四郎のモデルは会津若松出身の日本伝講道館の西郷四郎と言われる。

大仏次郎 大仏次郎(おさらぎ・じろう)
明治三〇・一〇・九〜昭和四八・四・三〇、本名野尻清彦。横浜生。『鞍馬天狗』をはじめ時代小説で出発したが、『帰郷』『天皇の世紀』などの大作もある。いま横浜に大仏次郎記念館がある。

菊田一夫(きくた・かずお) 
明治四一・三・一〜昭和四八・四・四。横浜生。脚本家や演劇プロデューサーとして活躍、『鐘の鳴る丘』『君の名は』などの代表作がある。

半井桃水(なからい・とうすい)
万延元・一二・二〜大正一五・一一・二一、対馬生。樋口一葉に師と慕われたことは有名。日露戦争に福島民報から久保和三郎が従軍記者として旅順に行き、半井と知りあい、戦後、久保の薦めにより取材に来福して執筆した。明治四〇年九月〜一二月まで東京朝日新聞に連載、同四一年に文禄堂から刊行された。

子母沢寛(しもざわ・かん)
明治二五・二・一〜昭和四三・七・一九、北海道生。『国定忠治』等の股旅ものや『父子鷹』などの歴史小説で知られる。洋画家三岸好太郎の兄。

富田常雄(とみた・つねお)
明治三七・一・二〜昭和四二・一〇・一六 東京生。『面』『刺青』で三一回直木賞を受けた。『春灯奇譚』『柔』等がある。

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