ふくしま文学のふる里100選-014/30page

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60 二等兵物語
梁取三義
小説  昭和二八年(一九五三)
二等兵物語
 「戦後の大衆文学の特異な現象は戦争小説の登場」だと荒正人が述べたが、昭和二十八年に出版された小説『二等兵物語』は、その中でも代表的な作品である。有無を言わせず赤紙(召集令状)一枚で一兵卒として軍隊に召集され、無理遣りに死地へ赴かせられた庶民にとって本来は否定すべき軍隊なのに、敗戦で消滅すると階級制や暴力によって人間性を奪った世界が一種のなつかしさで思い出される。それを描いている。主人公古山源吉二等兵は会津若松の連隊に入営した。「私たちは不思議な感激に身を振るわせながら東部二十四部隊の営門の前に整列した。」「会津白虎隊発祥の地、鶴ヶ城下である」と描いている。これは映画化され東北出身の俳優伴淳三郎のユーモラスな演技で観客を集めた。現在、若松には連隊の営門だけが残っている。


78 丹下左膳
林不忘
小説  昭和二年(一九二七)

 「この風のごとき浪士丹下左膳、じつは、江戸の東北七十六里、奥州中村六万石、相馬大膳亮(だいぜんのすけ)殿の家臣が、主君の秘命をおびて府内へ潜入している仮りの相(すがた)であった」。名刀乾雲坤竜を奪取するために、密かに江戸に放たれた片眼片腕の怪剣士。彼が行くところ争乱の嵐を呼び、血の雨が降る。名刀をようやく手に入れ、片恋の娘弥生と共に左膳は藩主の待つ相馬の松川浦へと船出したが―。この作品は最初『新版大岡政談』の題で発表。大河内伝次郎等名演の映画も人気を博し、相馬市には巨大な丹下左膳の碑も建てられた。

「二等兵物語」(C)松竹
 <松竹「二等兵物語」(C)松竹

「丹下左膳」(C)松竹「丹下左膳」(C)松竹


「姿三四郎」(C)東宝「姿三四郎」(C)東宝

「月光仮面」(C)東映「月光仮面」(C)東映

83相馬の仇討
直木三十五
小説  大正一三年(一九二四)

 母と密通し父を殺害した憎っくき仇、九郎右衛門を追って清十郎たちは膏薬の行商をしながら磐城相馬郡へやって来た。「相馬原町へきた江戸の講釈師、牧牛舎梅林、可成りの入りだが、今高座で軍記物を読んでゐる四十近い、芸名久松喜遊次といふ男、講釈師より遊人といつた名だから勿論前座だが、締つた読み調子」。実はこの喜遊次こそ九郎右衛門の世を忍ぶ姿、原町の広場で大勢の見物のなか、清十郎たちはみごとに父の無念を晴らした。作者が得意とした仇討ちシリーズの一篇で、千葉亀雄『新版日本仇討』にも同様の話が載っている。


90 東海遊侠伝
天田愚庵
伝記  明治一七年(一八八四)
東海遊侠伝
 愚庵は平藩士の次男として生れたが、戊辰戦争で父母らが行方不明となり、所在を求めて全国を放浪、山岡鉄舟門下となり、二五歳の時、鉄舟の世話で清水の侠客次郎長にあずけられ、かわいがられた。当時次郎長は侠客から足を洗い、社会事業家となっており、明治一四年には養子として入籍、山本五郎となった。そこで次郎長についての見聞をまとめたのが本書である。

 次郎長一家の大政、小政、森の石松らの活劇を描いたこの作品は、水滸伝ばりの名文で、その後の次郎長物語の種本となった。当時の衆議院議長大岡育造の序、成島柳北校閲となっており、結尾には両親らの尋ね人広告も掲載されている。昭和五二年いわき民報社が復刻版を出している。


95 天中軒雲月・月光仮面
川内康範
小説  昭和二三年(一九四八)・昭和三三(一九五八)

 月よりの使者、正義の味方月光仮面。白いマフラーとマントをひるがえし、オートバイでさっそうと登場して悪を撃つ。日本版スーパーマンとして昭和三三年からテレビに登場してお茶の間の人気を独占。さらに桑田次郎画の同名漫画も子供たちの夢と勇気をかきたて、月光仮面ごっこが大流行したが、実は両方ともに原作者は川内康範だ。彼は実在の女性浪曲師を描いた『天中軒雲月』という小説で、第一回の福島県文学賞を受賞している。
梁取三義(やなとり・みつよし)
明治四五・六・二五〜平成五・一二・二九、本名、光義。筆名に三義の他に彩田義夫、牧村真澄。南会津郡只見町生。『花咲く真理』『大地に唄ふ』『小説啄木』等がある。

林 不忘(はやし・ふぼう)
明治三三・一・一六〜昭和一〇・六・二九、新潟県生。他に、谷譲次、牧逸馬のペンネームを使い分け、古典の豊かな素養をうかがわせる快い名文で大衆小説を多作。

直木三十五 直木三十五(なおき・さんじゅうご)
明治二四・二・一二〜昭和九・二・二四、大阪生。『南国太平記』など多くの作品で、大衆小説の向上に貢献。没後、その業績を記念して直木賞が制定された。

天田愚庵 天田愚庵(あまだ・ぐあん)
安政元・七・二〇〜明治三七・一・一七、磐城国生。漢学及び国学を修め、剛毅な精神の持主だが、繊細な歌心も有し、落合直文、正岡子規らと交遊。晩年には出家し愚庵と号し、京都伏見に庵を結び、万葉調の秀歌を残した。この庵はいわき市松ヶ岡公園に移築保存されている。

川内康範(かわうち・こうはん)
大正九・二・二六〜、北海道生。終戦後二年間ほど、いわき市に居住し文芸同人誌『文祭』を発行、近くに住んでいた富沢有為男に師事した。後に大衆小説から歌謡曲の作詞に転じ「誰よりも君を愛す」「伊勢佐木町ブルース」等が大ヒット。



ふくしま文学略年表
福島県の文学 日本文学 県内・国内の歴史
昭和17(1942)、19 富田常雄「姿三四郎」錦城出版社 昭和6 堀 辰雄・菜穂子 昭和16 対米英宣戦布告
〃 18(1943)水原秋桜子「磐梯」甲鳥書林 〃18〜23 谷崎潤一郎・細雪 〃20 郡山大空襲、太平洋戦争終戦
〃 21(1946)東野辺薫「和紙」築地書店宮沢賢治「宮沢賢治歌集」日本書院 〃21 野間宏・暗い絵
   坂口安吾・堕落論
〃21 日本国憲法公布
〃 22(1947)山本周五郎・二十三年、「糸ぐるま−続日本婦道記」
        民衆社に収載荒正人「第二の青春」八雲書店
〃22 原民喜・夏の花
   太宰治・斜陽
〃22 マッカーサー、2.1ゼネスト中止命令
〃 23(1948)埴谷雄高「死霊」真善美社
        川内康範「天中軒雲月」積善社
        草野心平「定本蛙」大地書房
〃23 大岡昇平・俘虜記
   大仏次郎・帰郷
   竹山道雄「ビルマの堅琴」
〃23 帝銀事件
   昭和電工事件
   福島県文学賞創設
〃 25(1950)斎藤利雄「橋のある風景」冬芽書房 〃24 木下順二・夕鶴 〃24 平事件
   下山事件・三鷹事件 松川事件
〃 26(1951)田宮虎彦「落城」東京文庫
        菊田一夫「さくらんぼ大将」宝文館
〃25 中村光夫・風俗小説論 〃25 レッドパージ始まる
   磐梯朝日国立公園指定
〃 28(1953)大岡昇平・保成峠、「文芸春秋」8月に収載
        梁取三義「二等兵物語」彩光社
〃26 峠三吉「原爆詩集」 〃27 福島県歌人会設立
   メーデー事件
〃 29(1954)井上靖・湖上の兎、「末裔」新潮社に収載
        三野混沌「阿武隈の雲」昭森社
〃29 中野重治・むらぎも
   福永武彦「草の花」
   三島由紀夫「潮騒」
〃28 NHKテレビ本放送開始
   只見特定地域総合開発計画策定
   ラジオ福島開局
〃 30(1955)三島由紀夫「沈める滝」中央公論社
        金子兜太「少年」風発行所
        広津和郎「松川裁判」筑摩書房
〃30 椎名麟三・美しい女
   石原慎太郎・太陽の季節
〃29 造船疑獄で法相、指揮権発動
   自衛隊発足
〃 31(1956)志賀直哉・祖父、「志賀直哉全集5」岩波書店に収載
        富沢有為男・谷間の太陽、「地上」7〜12月に連載
        大岡昇平・磐梯愁色、「文芸春秋」1月に収載
        臼井吉見「近代文学論争」筑摩書房 
〃31 三島由紀夫・金閣寺
   石川淳・紫苑物語
   原田康子「挽歌」
〃31 水俣病公式に確認
〃 32(1957)円地文子「女坂」角川書店
        富沢有為男「白い壁画」講談社
        島尾敏雄・いなかぶり、「島の果て」書肆パトリアに収載
〃32 井上靖・天平の甍
   開高健・パニック
〃32 東北開発促進法公布
   国際ペン大会、東京で開催
〃 33(1958)〜34 川内康範「月光仮面」南旺社 〃33 平野謙「芸術と実生活」
   室生犀星・かげろふの日記遺文
〃33 狩野川台風
〃 34(1959)小山いと子「ダムサイト」光書房
        真尾悦子「たった二人の工場から」未来社 
〃34 有吉佐和子・紀ノ川
   安岡章太郎・海辺の光景
〃34 NHK福島テレビ局開局
   田子倉発電所完工
   伊勢湾台風
   磐梯吾妻スカイライン開通
〃 35(1960)城山三郎「黄金峡」中央公論社  〃35 島尾敏雄・死の棘
   三浦哲郎・忍ぶ川
〃35 新安保条約強行採決
〃 36(1961)山本周五郎「天地静大」講談社
        子母沢寛・座頭市物語、「ふところ手帖」中央公論社に収載 
〃37 安部公房「砂の女」
   高橋和巳「悲の器」
〃36 釜ケ崎で住民暴動
昭和37(1962)井上靖・小磐梯、「洪水」新潮社に収載
        ノーマン・メイラー・兵士たちの言葉、「ぼく自信のための広告」新潮社に収載 
昭和38 吉行淳之介・砂の上の植物群 〃37 第1回福島県芸術祭
〃 38(1963)舟橋聖一・猫と泉の遠景、「ある女の遠景」講談社に収載  〃39 柴田翔・されどわれらが日々− 昭和38 狭山事件
   最高裁、松川事件で上告棄却、全員無罪確定
〃 40(1965)杉森久英「大風呂敷」毎日新聞社  〃40 小島信夫・抱擁家族 〃39 常磐・郡山新産業都市に指定
   東海道新幹線開業
   東京オリンピック開催
〃 41(1966)鈴木隆「けんかえれじい」理論社  〃41 遠藤周作「沈黙」
   丸谷才一「笹まくら」
   井伏鱒二「黒い雨」
〃43 三億円事件
〃 42(1967)星新一「人民は弱し官吏は強し」文芸春秋社
        戸川幸夫「吾妻の白サル神」国土社
        加藤楸邨「まぼろしの鹿」思潮社 
〃42 大江健三郎「万延元年のフットボール」 〃44 東大安田講堂封鎖の全共闘学生検挙
〃 43(1968)司馬遼太郎「峠」新潮社  〃44 清岡卓行・アカシヤの大連 〃45 日本万国博覧会
   よど号事件
〃 44(1969)曾野綾子「無名碑」講談社  〃46 倉橋由美子「反悲劇」 〃46 福島第一原発営業運転開始
〃 47(1972)小林美代子「繭となった女」講談社
        三浦哲郎「まぼろしの橋」文芸春秋社 
〃48 小川国夫「或る聖書」 〃47 浅間山荘事件
〃 49(1974)早乙女貢「おけい」朝日新聞社
        吉野せい「洟をたらした神」弥生書房 
〃50 檀一雄「火宅の人」 〃49 福島県俳句作家懇話会設立
〃 52(1977)田山花袋「棚倉百勝詠歌集」棚倉町町史編さん室  〃51 村上龍・限りなく透明に近いブルー 〃51 ロッキード献金事件表面化
〃 53(1978)岩間芳樹「流離の女」三笠書房  〃52 宮本輝・蛍川 〃52 福島県現代詩人会設立
〃 54(1979)松本清張「天才画の女」新潮社
        渡辺淳一「遠き落日」角川書店 
〃53〜55 井上ひさし・吉里吉里人 〃53 福島民報出版文化賞創設
   宮城県沖地震
〃 55(1980)菅生浩「子守学校」ポプラ社  〃54 中上健次・鳳仙花 〃54 福島県文化振興基金設立
〃 58(1983)安岡章太郎「流離譚」新潮社  〃55 田中康夫・なんとなく、クリスタル 〃57 東北新幹線開業
〃 59(1984)安岡章太郎「大世紀末サーカス」朝日新聞社
        長田弘「深呼吸の必要」晶文社 
〃62 俵万智「サラダ記念日」
   村上春樹「ノルウェイの森」
〃59 福島県立図書館新築移転
   グリコ・森永脅迫事件
〃 60(1985)早乙女貢「会津士魂」新人物往来社  〃61 8.5豪雨で県下に大被害
〃 61(1986)皆川博子「会津恋い鷹」講談社  〃63 青函トンネルと瀬戸大橋開通
   リクルート疑惑発覚
平成1(1989)中村真一郎「蠣崎波響の生涯」新潮社  平成5 福島空港開港
    会津大学開学
〃 2(1990)津村節子「流星雨」岩波書店昭和

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