サクシード2中学校国語から高等学校国語へ-026/81page

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(7)未知の世界を想像する
  一地図からの発想一

●世界の拡大を実感する
 地図は、私たちの想像力を刺激してくれます。川の流れ、山の位置、道路の曲がり方、そういったものが幼.少年期の自分の世界を形作ってきたといえます。自分の周囲の地理をノートなどに再現することによって、自分の世界がしだいに拡大してきたことがはっきりします。
 また、まだ行ったことのない未知の土地を、地図によって想像することも興味深いことであり、自分だけの「架空の地図」を作ることは、想像力を豊かにすることにつながります。地図は人間を他の空間に誘うものといえます。
 写真家である星野道夫氏は、学生時代の古本屋で見つけた一冊の写真集によってアラスカヘのあこがれをふくらませていきました。

 僕はアラスカの地図を眺めるのが好きだった。この土地のもつ広がり、地形の多様性、そしてアラスカそのもののかたちは、さまざまな夢を誘った。まだ行ったことのない原野や川に想いを馳せ、過ぎ去った時代に耳をすました。いつの頃からか、べーリング海が気になり始めていた。遠い、かすかな足音が聞こえてくるのだった。
 たとえば、机の上に飾ってあるゴツゴツとした黒い大きなかたまり、それは西部ブルックス山脈からでたマンモスの歯の化石だった。カリブーの秋の季節移動を追って、西部アラスカ北極圏を流れるコバック川を何度となく下ったとき、大きく蛇行したある土手にさしかかると、僕はボートを岸のぎりぎりに沿って走らせたものだった。土手に白いものが突き出ていれば、それは多くの場合マンモスの牙か骨だった。高さ数十メートルのその土手は、川の浸食で現れた洪積世の地層だったのだ。
 べ一リンジアは、遠い昔に起きた地球の出来事ではなく、突然僕の前に現れては、綿々とつながってきたひとつの流れを実感させた。知識として知ることと感じることはちがうように、べーリンジアは自分自身の存在と無縁ではなくなっていた。いつの日か、地図の上ではなく、べーリング海峡の長さを自分の身体で感じてみたいと思った。
(「イニュニック〔生命〕アラスカの原野を旅する」星野道夫 新潮文庫)

地図からの発想
●地球の外から
 自分の位置を知るという意味で、車に搭載されるようになったナビゲーション・システムは興味深いものがあります。当初は平面的に描かれた画面が空を飛ぶ鳥の視点、つまり、バード・ビューを取り入れることにより、自分の位置が明確になってきたのです。自分の視点を高くすることによって、俯撤しながら自分の位置を確認することができるようになるのです。
 小さいころ自分が遊んだ場所を回想することや、そのときの自分の感じた匂いや触感を思い出すことによって、私たちは「自分の世界」を確認し、自分の位置を知るとともに、自分の内面を深めることができます。

授業の窓
●課題 1)
 宮沢賢治「銀河鉄道の夜」を読んで、ジョバンニの住んでいる街の地図を書いてみよう。
 また、ジョバンニとカンパネルラの乗った銀河鉄道の車両の位置図を書いてみよう。
●課題 2)
 漱石の「こころ」を読んで、私とKの下宿周辺の地図を確認してみよう。

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