教育福島0003号(1975年(S50)07月)-043page

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資料

 

重度・重複障害児の教育

動向と「わかくさ」学級

 

一、教育の動向

養護学校の義務制については、今日まで、その実施時期を政令にゆだねたままきたわけであるが、昭和四十八年十一月、就学義務及び設置義務の実施を昭和五十四年四月一日とする、と定めた政令が制定、公布されるに至った。

更に、昭和五十年三月の特殊教育の改善に関する調査研究会の報告一昭和五十年三月一の中では、重度・重複障害児に対する教育のための基本的な考え方として、「心身障害児に対する教育は、その者の障害がいかに重度であり重複している場合であろうとも、もとより教育基本法に掲げる目的の達成を目指して行われるべきもの……」と述べられている。

このようにして、昭和五十四年四月一日から、寝たきりの子供たちにも「義務教育を」という体制が、本県においても実現される運びとなっている。県においては、昭和五十年度から、教育庁高等学校教育課内に特殊教育係が設置され、県内の心身障害児の実態に対応した完全就学体制の整備を急いでいるところである。

このような情勢の中にあって、国立療養所福島病院に付設された「わかくさ病とう」においては、既に、須賀川養護学校の一学級として、医療・福祉と一体となった教育が開始されてきている。これが「わかくさ」学級である。

二、「わかくさ」学級における教育

ここの重症心身障害児施設に入所中の子供は、重度のし体不自由・知的障害を持つ寝たきりの障害児で、全員が就学猶予・免除の措置により、学校教育の外に置かれてきていた。これらの心身障害児は、ほとんどがベッド生活で、医師が巡回し、看護婦が健康管理をする、という医療的介護のもとに置かれてきていたといっても過言ではなかろう。しかし、医師、看護婦、児童指導員、保母、父兄など、この子らと毎日の生活をともにする人たちの間で教育サイドからの働きかけを強く望むようになり、その結果、「わかくさ」学級の実現を見たのである。しかしながら、制度的にはまだ確立を見ていないため、その指導内容・方法など実践を通して解決されなければならない問題が数多く見られる。

たとえ、障害が重度であっても、発達の可能性があり、教育が必要であることは、既に言われてきているところであるが、教育の必要性、可能性をどのようにとらえればよいのかについて西多賀療養所の阿部幸泰氏は、「注入(カテーテル)の最後の一滴をスプーンで口に当てるとりくみから教育は出発する」と述べている。教師がベッドに近寄るとき、この子らの目はなにものかを求めて輝き出す。それが、まひで引きつった手、指、足、更に全身の動きとなって、教師の目に写るであろう。そのような微細な動きの一つ一つを教師が的確にとらえ、今、この子らに、何を、どのようにすればよいか、現在行われている普通教育での指導内容、方法からは想像もできない問題と先生がたは真剣に取り組んでいる。

三、実践の取り組み

百二十名の「わかくさ病とう」入所児のうち、八十二名が学齢児童・生徒であるが、その中から、多くの資料に基づき二十三名を選び、初年度の対象とした。これら児童・生徒の状況は、十九名が脳性まひで、上・下しとも日常生活は全面介助を必要とする状態で、全員が言語障害を持ち、十五名は発語困難で意思の疎通を図ることが難しい。

同じ重障児と言っても、その実態は多種多様であるため、指導内容も、成長発達という中核的目的を持った児童・生徒一人一人に、体系化された配列が必要である。また、医療・看護・日常生活の介助指導、運動機能、感覚機能、青緒面、知的学習、保健などの目的内容が、統合されたものとして取り上げられることも必要である。したがって、「養護・訓練」「生活科」は、学習を進める上での中核的存在となっている。

また、障害による諸経験の不足は、全員について言われることなので、その領域の拡大のために、指導場面を多く設定することに努めながら、それぞれの興味・関心に基づいて、易から難への指導を実施している。「わかくさ」学級での指導の実践を通しての感想を現場の安藤哲夫教諭は次のように述べている。

○ 生れて初めて、自分で好きな色を選び、まひで不自由な手・足にクレパスをつかみ、動かすことによって目の前に絵という世界が開かれた。その喜びにこの子らは、全身を震わせていた。

○ 絶えず話しかけて、心を揺さぶり心のうちに潜み隠されている感情を表に出させてやる営みこそ、この子らにとっての教育であろう。「わかくさ」学級におけるこのような教育の実践は、昭和五十四年度の義務制を目指しての教育の一端として、われわれに貴重な教訓を与えてくれるものである。しかし、全県的立場で今後のこの教育を考えるとき、多くの問題が見いだされてくる。特に、児童・生徒一人一人の実態に応じた就学指導体制の整備、専門教員の養成・確保、施設設備の拡充、医療・福祉等の連携の問題等が考えられるが、現在まで築かれてきた特殊教育の実績を基礎に、昭和五十四年度目指して努力致す考えである。

 

 

 


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