教育福島0010号(1976年(S51)04月)-041page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

やさしい教育法令解説

 

学校事故について

 

一、はじめに

学校事故とは、学校の施設・設備あるいは教育活動に伴って生じた児童・生徒等の負傷や死亡事故を指しています。このような学校事故が生じた場合に問題となるのは、責任関係はどうなるのかということです。そこで今回は、この問題について概略述べてみます。

二、責任の種類

責任には大別して道義上の責任と法律上の責任がありますが、ここでは法律上の責任だけをとりあげます。現行法上の責任としては、(一)民事上の責任(二)刑事上の責任 (三)行政上の責任があります。

三、民事上の責任

まず第一に民事上の責任ですが、これは教員の不法行為に起因する第三者の損害を賠償するという内容の責任です。ところで、公権力の行使に当たる教員が、その職務を行うについて第三者に与えた損害については、国家賠償法で、国又は地方公共団体が責任を負うことを規定しています。

公権力の行使の意義については、大別して狭義説・広義説・最広義説の三種があります。狭義説は、一般統治権による優越的な意思の発動たる権力的作用を指すものと解し、広義説は、私経済的活動を除く非権力的作用をも含むと解し、最広義説は私経済的活動をも含むとするものです。判例上最広義説を採ったものはありませんが、狭義説・広義説については、それぞれについて多くあります。

なお、公務員に故意又は重過失があったときは、国又は地方公共団体は当該公務員に対して求償権を有することに留意する必要があります。

また、民事上の責任については、国家賠償法のほか、民法の不法行為の規定に基づく賠償責任があります。不法行為とは、故意又は過失により違法に他人の権利を侵害することです。

民事上の責任の事例としては、工作の授業時間中電気かんなで生徒が指を負傷した事故(広島地裁三次支部昭和四十二年八月三十日判決、請求一部認容)、清掃中生徒が衝突して死亡した事故(福岡地裁昭和四十五年五月三十日判決、請求棄却)、特別教育活動の一環として行われた柔道クラブ活動において、初心者が投げられ負傷した事故(熊本地裁昭和四十五年七月二十日判決、請求一部認容)等があります。

国家賠償法第二条は、学校の校舎・校庭・プール等の設置管理の暇疵に基づく損害の賠償責任について国又は地方公共団体が責に任ずる旨規定しています。(暇疵とは、本来備えるべき安全性を欠いていることを意味します。)

例えば、体育の授業中砂場に混入していた異物により走り跳びをした生徒が負傷した事故(神戸地裁尼崎支部昭和四十六年五月二十一日判決、請求一部認容)、体育の授業中混濁していたプールの深部において生徒が溺死した事故(松山地裁昭和四十年四月二十一日判決、請求一部認容)等がその事例です。

四、刑事上の責任

次に刑事責任ですが、これは、教員の行為が犯罪を構成する場合に罰金刑・禁固刑・懲役刑等の刑罰(刑法第九条参照)に処せられることを内容とするものです。学校事故との関連で適用される犯罪としては、暴行罪・傷害罪・業務上過失致傷罪・失火罪等ですが、判例としては、生徒を引率し、登山中生徒を転落死せしめた事故について、引率の教員に対し、その行為が業務上過失致死罪に当たるとして罰金刑に処した事例(札幌地裁昭和三十年七月四日判決)、体罰が暴行罪に当たるとされた事例(大阪高裁昭和三十年五月十六日判決)等があります。

刑事責任との関連で留意しなければならない点は、起訴休職(地方公務員法第二十八条参照)と禁固以上の刑に処せられると、当然に失職するということです。(学校教育法第九条、教育職員免許法第五条参照)

五、行政上の責任

最後に行政上の責任ですが、これは、公務員関係の秩序維持を図るために任命権者によって行われる懲戒処分です。いかなる場合にいかなる種類の懲戒を受けるかは、個々具体的な事例に即して判断されます。(地方公務員法第二十七条・二十九条参照)また刑事罰を科せられた者についても懲戒処分をすることは可能であります。

 

 

 


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育委員会に帰属します。