教育福島0015号(1976年(S51)10月)-041page

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やさしい教育法令解説

児童生徒の懲戒について(1)

 

一、懲戒の意義

 

学校教育法第十一条は、「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、監督庁の定めるところにより、学生・生徒及び児童に懲戒を加えることができる。」とし、監督庁である文部大臣が定める同法施行規則第十三条は「校長及び教員が児童等に懲戒を加えるに当っては、児童等の心身の発達に応ずる等教育上必要な配慮をしなければならない。」と規定している。学校は教育の目的を達成するための公の施設として、その秩序の維持を図るため、必要な制裁を加えることは一般に認められるが、児童生徒(以下「生徒等」という。)に対する懲戒は、「教育上必要があるとき」とか「教育上必要な配慮をする」という前記の法の文言が示すように、単なる制裁ではなく生徒等に対する教育作用としては握されている点に特色がある。

 

二、懲戒の種類

 

このように、学校の教育目的を達成するために行われる懲戒にはどのような種類があるか。施行規則第十三条は退学、停学、訓告を明示しているが、これら以外にも懲戒があることは、同条が「懲戒のうち」と規定していることから知りうる。例えば、授業中におけるしつ責や起立等である。

ところで、懲戒を、生徒等が学校において教育を受ける法律上の地位を変動せしめるかどうかという法的効果の有無の観点からみると、訓告・しっ責・起立のように事実上の行為に止まるものと停学、退学のように教育を受ける地位を制限、はく奪するものに区分することができる。

停学(謹慎、登校停止等も同一内容を有する。)は、一定期間ある特定の学校において、教育を受ける法律上の地位を制限する内容を有するものであり退学は、その地位をはく奪するものである。退学は、一方的に生徒を学校より排除するものであるから、他の処分に比し慎重に行われることが必要であり、法も一定の事由に限って認めている。(学校教育法施行規則第十三条第三項、最判昭和四十九年七月十九日参照。)

具体的事例を裁判上問題となったものから摘記すると、(一)窃盗や喫煙を行い、成績も極めて劣等である高校生に対し、性行不良で改善の見込みがないこと、学力劣等で成業の見込みがないとして退学処分に付した例(岡山地判昭和二十六年五月三十日)、(二)無届欠課、飲酒、かけトランプ、喫煙等をした者に対し性行不良で改善の見込みがなく、学校の秩序を乱し、生徒の本分に反するとして退学処分に付した例(甲府地判昭和三十九年七月十六日)(三)学園紛争の際に校長室を封鎖したこと等が学校の秩序を乱し、その他学生としての本分に反したとして退学処分に付された例(札幌高判昭和四十六年三月八日一等があり、いずれも学校の処分が認容されている。

 

三、懲戒権者

 

生徒等に対する懲戒は、前述のように教育作用の一環として行われるものである。従って、生徒等の実態を直接には握している校長、教員が行うことが望ましいことは言うまでもない。学校教育法、同法施行規則も懲戒権が校長、教員にある旨明示している。

懲戒権に関して、自己の担任外の生徒等に対して懲戒をすることができるかという問題がある。「教員の懲戒権も児童が自己の担任せる学級に属すると否とに依りて消長を来たすべきものに非ず」との判例もあり、積極的に解される。

また、懲戒のうち法的効果を生じる停学、退学は、校長のみが行いうるが行政事件訴訟法上、校長は、国や地方公共団体という行政主体の意思を決定し、これを表示する権限を有する行政機関としての行政庁に当たり、被告適格を有するものとされている。そのため懲戒を受けた者がその処分の取消等を求める場合は、校長が被告となるのである。(行政事件訴訟法第三条、第十一条、大阪高判昭和二十八年四月三十日 参照。)

 

 

 


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