教育福島0025号(1977年(S52)10月)-005page
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巻頭言
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音楽の効能について
福島県教育庁教育次長 小畠哲
私はかつて芸術行政の仕事に携わっていた関係で、多くの音楽家と知り合う機会をもった。
ある時、高名な作曲家から「音楽家ほど嘘(うそ)つきはいませんよ」という話をきいたことがある。これはなにも音楽家が信用ならないということでなく、むしろ人間の心に働きかける音楽の摩訶(まか)不思議な力を強調するアイロニーといったものであろう。
音楽はたしかに他の芸術分野とちがって、現実の世界にあるものをそのまま模写するということは多くない。大部分は音楽家によって抽象的に創(つく)り出されたものである。
しかし、この嘘の産物は真に神秘的な力をもっているようだ。
たとえば、人々の不安感をなくすためには、ショパンの「マズルカ舞曲」「ノクターン」、ドボルザークの「ユーモレスク」がいいと言われているし、また、先般高知市内で起こった人質犯罪者などに対しては、その怒りや興奮を押さえるためにはバルトークの「野外組曲」やベートーベンの「月光」をきかせたらよいと述べている学者もいる。
このように人間の心に強い影響力をもつ音楽を、医学的に利用しようというのが音楽療法(ミュージック・セラビー)である。現に精神科を始め歯科、外科、麻酔科、自閉症児の治療などには、かなり活用されているらしい。
さらに、機械的な単純作業の多い職場やストレスの累積する労働環境にもその効果を発揮していると聞く。
そこでこのような音楽の力をもっと学校生活の中で生かすくふうがなされないものであろうか。単に音楽の時間に知識・技能を教えるだけでなく、調和のとれた人格形成の手段として音楽の効能を全面的に生かしてほしい。そして乱暴な子や落ち着きのない子を落ちつかせたり、やる気のない子供にやる気を起こさせたり、さらには成績が悪いといって気落ちしている子供を励ましたりするために、音楽を活用する具体的方策を系統的・組織的に研究して行ったらよいと思うがどうであろうか。
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