教育福島0030号(1978年(S53)04月)-005page

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巻頭言

随想

 

福島県立会津短期大学学長 三本杉國雄

福島県立会津短期大学学長 三本杉國雄

 

教育長の職を去って一年ちょっと、新緑もえる山野を見て感懐なきを得ない。自分の在職中やろうとして果たし得なかったもろもろの行政面で、確かな足どりと新鮮さを盛った諸施策が次々と打ち出されている実態。この姿は私にとって本当にありがたいことであり、心から「よかった」という思いで関係者に敬意と感謝をまずもって呈したい。

さしあたってインターハイはもうすぐそこに迫っている。教育界・体育界の一大行事であると同時に、福島県の真価を問う、いや呼びかける県民挙げての快挙たらしめなければならないし、これを契機として、とかく学校体育のみによりかかり気味だったものから、社会体育への進展の転機たらしめたいものである。

スポーツと平行して文化の振興の高まり、これまた本県行政の極となり、一大飛躍が期待されている。

「文明開化」を旗印として、欧米に追いつき、追いこせの時代は、「知識」の獲得がその基調にあり、昭和の敗戦後は「経済復興」が念願であった。いずれもその時代の要請にそった国策ではあったが、物質文明と経済の発展は金権万能主義をもたらしたこともおおいかくし得ない。

そして永年にわたるそれらのひずみが精神的なものの衰退を招来し、それが強く指摘されるにいたって、古きよきものの見直しが全国的ムードを醸成している今日である。「心のふるさとを求めて」「原点に帰れ」の反省とともに、文化的なものの再認識が、身近な郷土、あるいはみずからの生活のうちに探し求めるようになっている。

「文明」の基調に知識ありとすれば、「文化」のそれは「知恵」にあり、「知恵」による「創造」こそ文化的運動であり所産であると定義している人もある。古きよきものへの回顧と同時に、物まねや流行にとらわれぬ新しい創造への意欲の喚起を目指すことも大きな道であろう。

ともあれ、二十一世紀はあと二十三年後にやってくる。現に教えている子供たちがその主役をつとめる年代である。石油ショックに衝撃を受けた熱エネルギー問題、二百カイリ漁獲に象徴される食糧資源、関連して世界人口問題、老齢化・福祉問題等々、どの一つを取って見ても、短日月に一挙にしかも一国のみで処理不可能な難題の解決が今の青少年層に課せられてくるのである。

こうした将来の展望に立つとき、今後の教育も質の向上、いって見れば健康明朗で国際的に働き得る有能な人材の育成を意図しなければ、GNP第二位を自負している日本の今後はどうなることか。いつまでも選別教育絶対反対、平等化・平板化を目指す教育運動のみでは、国家の、そして民族のより高い発展は期し難いこと自明ではないだろうか。このことたる、行政面でも現場でも一大関心事でなければならぬはずであろう。

 

 

 


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