教育福島0034号(1978年(S53)09月)-005page
巻頭言
世相にみる健康法
福島大学教育学部附属中学校長 鈴木勝衛
近ごろマラソンブームで朝夕トレパン姿がよく目につき、各種の大会も増えている。
健康にはまず走ることと、中高年層の健康法として注目され、それが主婦層にも浸透しつつある。ブームの陰には、現代社会生活の慢性的な運動不足からくるストレスというひっ迫した問題から始めた人、また運動不足の害や健康のための走運動の効用を説かれ、「なんとかせねば」と重い腰をあげた人もあろう。
いずれにせよ少しでも多くの人々に汗を流すことの爽快さを味わってもらうことは結構なことである。
一般に運動不足は筋力やスピード、持久力など行動体力が低下するが、健康を守るということだけについてみれば、筋力やスピードは第一義的な意味を持つわけでない。しかし持久力の低下は防衛体力の低下を招き、成人病の下地を作ることにつながる。
中年以後の体力つくりのねらいは、全身のスタミナを高め、肺や心臓を刺激することで防衛体力を強化しながら健康を保持し、ひいては成人病の予防につとめることであろう。
走運動の効用について人の話しを聞いた頭での理解だけでは、話を聞いたときは、「よしやらねば」と思うが三日坊主に終わり易い。たしかにテレビの前のゴロ寝から思い立って走るには勇気が必要であろう。行動に移るかどうかはその人の哲学や意識の問題かも知れないが、いたずらにブームにのって急に走り出したり、話を聞かされただけで急に走り出すことは危険が潜んでいる。
毎日走っている人や走ろうとする人に水をさす気持ちは毛頭ないが、自分は健康と思っていても、実際は予想以上の体力低下や成人病が潜在していることが多い。臨床検査と専門医の診断、体力診断など精密検査の結果、即座に走り出してもよい人は三〇%という結果も報告されている。
事前の検査がふじゅうぶんであったり、自己流のプログラムでやみくもに走るところに危険が潜んでいる。よい健康法である走運動の事故の大部分は周到な用意と注意によって防ぐことができる。体の仕組みと運動負荷に対する反応の起こり方を理解し実行することがたいせつなことであろう。
要は中年以後にはがんばりは不要であり、人と競走することより自分で進歩を楽しむという姿勢と、生がい体育が標ぼうされている今日、体力診断を含めた検診システムやその機関の設置と、個人差に応じたプログラムや練習計画の立て方の指導を手軽に受けられる、「健康開発センター」のごとき機関の実現を一日も早くみたいものである。