教育福島0046号(1979年(S54)11月)-026page

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この子らに光もとめて

 

菅野房江

 

菅野房江

 

今朝の太陽も明るく海に光っています。「A君おはよう」「先生おはようございます」通園バスから降りて来る子供たちと迎えに出る先生の朝の挨拶から学園の一日が始まります。N君も私の姿を見つけ、にこにこかけてきます。あんなに私を悩ませたころとは別人の顔、「あたたかい土をふんで…」みんなで元気よく学園の歌を歌い始めたとたん「もう一回、もう一回」と大声で暴れ出したN君。自分はみんなといっしょに歌わないで、もう一度歌い直せといつもの「わがまま」が始まったのです。

ちえおくれのN君は、落着きなく興味が次々と変化し全く意味のないひとりごとを話したり、突拍子な感情を爆発させて、物を投げたり、書いている紙をくちゃくちゃにしてやぶいたり「やあ」というが早いか給食をおぼんごとひつくり返し、おかわりがほしいと泣きわめきます。「おかわりはありません」といわれるとひつくり返したのを拾い、それを食べようとし、きたないからといって止められると友達の分までひっくり返し、おいしい給食を食べるどころか教室中は蜂の巣をつついたようなさわぎです。

しばらくの間、N君の気持ちを刺激しないように注意しながら、わがままを聞いてやりました。鼻すじの通ったつぶらな瞳の可愛いい顔をしているN君は、どうしてこう暴れるのかしみじみ顔を見つめる日々でした。N君の指導はやさしさだけでは良くなりそうもありません。保母さんと協力し少しずつ厳しくしつけていくことにしました。そしてN君にも「これからはわがままはゆるさないよ」と約束しました。「はい わかりました」といいながらまた大暴れです。N君がやり直しを要求しても「みんなといっしょにやらなかったのが悪いのだから一人でやり直しなさい」と泣き叫ぶN君の気持ちを思いながらも、心を鬼にして一人でやり直しをするようにさせました。給食も一度に与えず半分ずつ食べてからあげるようにしました。ものすごい声で泣きわめくので「N君またあばれだしたな」と園長先生をはじめ先生がたにはご心配をかけました。幸いなことにN君は字を書いたり読んだりできるので日記を書くことを指導しました。「今日は何をしたの、給食はなに」と聞きながらの書きはじめでしたが、一日も忘れず七冊のノートを書きあげました。まわりの子供たちもN君の日記を書くのを見て「わたしもにっき にっき」と催促し、日記は書けないまでも名前のなぞり書きからはじめ、だんだん文字らしい形になり一字また一字自分の名前もなんとか書けるようになった子もいます。園長先生も教室においでになり、見違えるように落着いて学習したり、残さないできれいに食事するようになったN君をみて「N君本当におりこうになったね、えらいなあ」と力づけてくださいます。折り紙やちぎり紙が上手でも自分力らしゃべらない子 ブランコや高い所が好きでよく運動するか、ちっともジッとしていられなし子言葉を教えてもオーム返しにしか返ってこない子など、一人一人の障害も成長も違いますが「教育すること」のすばらしさと教師の喜びをしみじみと感じさせられます。子供たちの可能性を引き出し育てるために、生活指導を中心とした計画に基づき、種々の体験をさせて、繰り返し繰り返し根気よく指導にあたっています。

養護学校の義務制とともに、障害児教育もますます充実し、学園の子供たちの光をもとめ、張り切って勉強できることをうれしく思っている今日このごろです。

(いわき市立小名浜東小学校教諭)

 

くり返しくり返しの練習

くり返しくり返しの練習

 

 

 


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