教育福島0051号(1980年(S55)06月)-013page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

はじめに

 

近年、児童生徒の問題行動は、低年齢化、複雑化の傾向にあり、社会問題になっている。

学校における生徒指導も児童生徒の非行防止の対応に追われ、本来のあるべき姿を見失いがちになることも否定できない。

しかし、一方では、このような時にこそ生徒指導のあり方を原点に立ち返って見直してみようとする研修や実践活動がすすめられていることは心強い限りである。

現職教育のテーマに「生徒理解」や「教育相談」を取り上げて、専門的な知識や技術の向上に努めている学校や、計画的に検査、調査、相談を実施し適切な指導に努めている学校がふえている。更には、管内の小・中学校の特定学年の全児童生徒の性格・行動診断テストを予算化した市町村教育委員会の例など生徒指導への真剣な取り組みが見られる。

いうまでもなく、生徒指導はすべての児童生徒を対象とし、一人一人の人格の価値を尊重し個性、能力の伸長を図りながら、社会的、国民的な資質や行動を高めることを目的として行われる教育の機能である。

今回は、このような視点から各学校の生徒指導の充実に資するため、研究実践を紹介するものである。

 

生徒指導を見直す

--福島市教育委員会 生徒指導委員研究集録から--

 

一 子供の求めている生徒指導

 

1 子供の心の底からの声に耳を傾ける

いかなる子供でも、自分なりによくなりたい、向上したいという願いをもっている。こうした願いの原動力に次のような基本的欲求がある。(マスローの欲求階層説)

・所属への欲求 集団に所属し、友達と円満に充実した生活をしたいという欲求

・承認への欲求 集団の仲間や、教師から存在価値を認められたいという欲求

・尊重への欲求 集団の仲間や教師から尊重されたいという欲求

・自己実現の欲求 自分のなすべきことを明らかにとらえ、自分の持つ能力、個性を最高度に発揮し、成就感、満足感、充実感を味わい、自己を生き生きと表現したいという欲求

こうした欲求を満たすため、子供は自分なりに努力しており、また、これらの欲求を満たしてくれるような教師の援助を求めているものである。教師はこれにこたえるために、子供一人一人の願いに耳を傾けながら、子供が人間として自分を高める生き方を常に求めていくことができるよう、援助の手をさしのべることが何よりも必要である。

 

2 自分のありのままの姿を自らとらえる態度を育てる

子供は、自分の身のまわりに高い関心を持っているが、自分自身に目を向け、自分のありのままの姿をとらえることができないでいる。たとえとらえたとしても、ぼく然としたとらえ方をしたり、また、長所を過大視するあまり、高慢な態度をとったり、ささいな短所に劣等感をもち、その短所を致命的な欠陥と思いこみ意欲を失っているなど、ゆがんだとらえ方をしている者もいる。

更に、自分の短所や弱点をたなにあげ、その責任を他に転嫁したりして自分の都合のよいとらえ方をしている者もいる。特に子供は自我防衛機制を働かせて、他人の注意や指摘などを素直に受け入れない場合が多い。

しかし、子供の心の底には自分をもっとよく知りたいという願いがある。この願いにたえるために、基本的に次のような点に留意して援助していくことが必要である。

・子供自身が自分をあるがまま受け入れる態度を育てる。

他人の失敗をちょう失したり、互いに反目しあう雰囲気の中では自分をぁるがままに受け入れる態度(自己受容)は育たない。したがって、教師自ら自分の欠点や失敗を謙虚に認め、たえず自分自身を高めようと努めるとともに学級・学年全体に自分をあるがままに受け入れようとする人間関係を深めながら、子供一人一人に自己受容の態度を育てていくことが必要である。

・教師はあらゆる場と機会をとらえて、子供一人一人を観察し、子供自身に自分の行為や経験について意識させる。

子供は身のまわりの雰囲気や動きに非常に敏感である反面、自分の行動については、あまり意識していない場合が多い。したがって、道徳・学級指導の時間のほかにグループ日誌や教育相談等、あるいは自由な雰囲気の中でこれまでばく然としたとらえ方しかしていなかった自分の行為や経験の意識化を図り、言語的に表現することができるように援助していくことが必要である。

多面的な自己経験の意識化が進むことは、意識的ないし、有意的な自己制御がよりよくできるための基礎条件の一つであるといわれており、自己理解を深めるためにも非常に重要なことである。

 

3 自らの力で自己実現を図る態度を育てる

自分を静かにみつめることによって

 

 

 


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育委員会に帰属します。