教育福島0061号(1981年(S56)06月)-009page

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はじめに

 

「生徒指導は生徒理解に始まり生徒理解に終わる」といわれるように、生徒理解の充実が、生徒指導上の諸問題の解決に果たす役割は大きい。

もちろん、人間を完全に理解するということは不可能であるが、可能な限り理解しようとする姿勢と継続的な積み重ねが大切である。

常に児童生徒と接していると、児童生徒のことはよくわかっているものと思いこみがちである。その自信と熱心さは尊重されなければならないが、ともすると教師の生徒理解が、教科指導を通しての一面的な生徒理解に止まり.がちであり、心しなければならない。

本県教育委員会は、生徒指導の重点の一つに「生徒理解を一層充実させ、生徒指導に当たる」ことをあげ生徒指導の充実を図っている。

本稿は、この課題に応えるため、生徒理解の基本的事項について述べるとともに、校内の共通理解の進め方についてもその方向を示し、各学校における生徒指導の推進に資するものである。

また、生徒理解のための貴重な実践も紹介する機会を得たので、具体的な生徒理解の推進のために参考になれば幸いである。

 

一 生徒理解の推進

 

1 生徒理解の基本的なあり方

 

(1) 個々の児童生徒の個性の把握

学級集団を構成する一人一人の児童生徒は、身体的、情緒的、知的、社会的な面における発達がそれぞれ異なっており、家庭環境、社会環境なども異なっている。

したがって、児童生徒は、それぞれ独自の特質を持っている。

生徒理解とは、児童生徒一人一人の個性的な特質を把握することであり、それが本人にとってどのような意味を持つのか、今後の人格の形成にどのような影響を持つのかなどについて的確に理解し、一人一人の発展性を探っていくことであるといえよう。

 

(2) 総合的に理解すること

 

生徒理解の深化のためには、生徒の現状を理解するだけでなく、過去にさかのぼって発達の過程をたどるとともに、生徒の未来への展望をも踏まえたうえで、総合的に理解し、解釈する必要がある。

この方法としては、面接、観察、調査・検査などがあり、これらによって資料を収集する。しかし個々の資料は人格の限られた一面をとらえているにすぎないので、関連する他の資料や日常の行動全体の特質などを総合し全体像として解釈することが望まれる。

この場合、日常の観察結果と客観的な検査結果との間に、不一致が生じたり、客観的な資料相互の間に、ずれが見い出されたりすることがある。

こうした際には、新しい資料を求めるなどして、これまでの解釈に検討を加えていく必要がある。また主観的な判断の偏りをなくすために、他の教師の判断などをも広く参考にすることが大切である。

このように児童生徒の、より的確な理解や洞察力が求められるのである。

 

(3) 共感的に理解すること

 

生徒理解においては、共感的な理解を基本としなければならない。

教師の態度が児童生徒を尋問的、非難的に見ようとするのであれば、児童生徒は、自己の真実を打ち明けて語ろうとはしないであろうし、教師と生徒の間に望ましい人間関係の成立を期待することも望めないであろう。

児童生徒との人間的な触れ合いを大切にし、児童生徒自身の話に耳を傾け、日記や作文にこめられた心情を児童生徒の身になって感じとろうとする態度が重要である。

このような態度を基本にした上で、児童生徒の特質や、問題の状況を把握し、更に他の客観的な資料などによっても確認する必要がある。また共感的な理解の機会として定期面接などがあり、これは新たな生徒理解の資料を提供してくれることにもなるので、特に重視する必要がある。

 

(4) 児童生徒の自己理解の深化を図ること

 

青年期は、自我の確立を図る時期に当たり、自分自身について不安や動揺を感じやすい時期である。

児童生徒は、自分は一体何なのか、自分の見ている自分が果たして正しいのか、他の人は自分を正しく理解してくれるだろうか、などといった不安感を絶えず抱いているといってよい。

したがって、児童生徒が自分自身の発達の姿を知り、発展の可能性について理解できるよう援助することが大切である。

このためには、児童生徒自身が、自分の学業成績のほか、自分の経験、各種の調査・検査の結果などに自己評価を加え教師と話し合いながら、協力して自己実現の可能性を探ることができるようにする必要がある。

また、児童生徒の自分自身に対する感情や態度を明確に意識できないでいる場合には、自己概念を明確化し、ゆがみを是正していくように援助することも必要になるであろう。

 

(5) 理解と指導を切り離さないこと

 

生徒指導における生徒理解は、指導に生かすための理解でなければならない。

もちろんへすべての教育の場における生徒理解は、児童生徒をどのように

 

 

 


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