教育福島0061号(1981年(S56)06月)-021page

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随想

 

笑顔を求めて

 

田部優子

 

日の続きやろうよ」顔中にほとばしるような笑みを浮かべて返ってくる返事。

 

「Tちゃん、おはよう。今日も元気かな?」「ウン。先生おはよう」「今日もたくさん遊ぼうね」「ウン、昨日の続きやろうよ」顔中にほとばしるような笑みを浮かべて返ってくる返事。

なんの屈託もない明るい笑顔に思わずこちらまでが浮き浮きした気分にさせられてしまう。子どもの笑顔って何て素敵なんだろう。…ようし私も子どもに負けないくらい笑顔を返してあげなくては…。「あれ、K君元気がないね。お寝坊でもしたかな。それともお姉ちゃんとけんかでもしてきたかな」「…………………」今にもこぼれ落ちそうな涙を精一杯こらえているK君。

まだ園になじめないのか、廊下の隅で一人しょんぼりしている。早くみんなのような笑顔を取り戻してやりたいな…。そんなことを考えながらK君の好きなテレビ番組の話をしてみる。

初めは首をこっくりさせて返事をしていたが、そのうちに、はにかんだほほえみとともに「ボク、お姉ちゃんと一緒にテレビ見たよ。それでね…」テレビの話が終わるころ、涙は既に乾いていた。もう大丈夫「元気に遊ぼうねK君、先生はやっぱり笑顔のK君が好きだな…」

毎日見られる些細な光景。だが一見同じような光景でも、その日によって微妙に異なる子どもたちの姿、心理状態を果たしてどのくらい確かに受け止めてあげているのだろうか…。また、いつもの泣き虫が始まった、などと表面的なことだけで判断していないだろうか…。時折、自信がなくなります。いっでも子どもの心の痛みまでも感じとれる教師でありたい、と願いながらも、現実にはあやまった安易な受け止め方をしていることがあるような気がしてなりまぜん。

本園は、小学校内に併設されてまだ三年目ということもあり、なにもかもが新しい試みの連続です。私たちの努力次第で、子どもたちの経験や活動をどんどん充実させて行くことができるのですから、とてもやりがいがあります。

しかし、その反面、すべては私たち教師の幼児教育に対する意欲にかかっているのだと思うと、少々こわいような気さえしてきます。この道を歩み始めて六年目を迎えるというのに、足跡はとても細く消え去りそうで、しょっちゅう迷路に踏み込んだり立ち止まったり…。なかなか思うように進めず四苦八苦しているのが実際です。

子どもが好きでいつでも一緒に遊べるということに憧れて入ったこの世界でしたが、ますます離れられなくなりました。子どもに教えるよりも、教えられることの方が多いような毎日ですが、一人一人との出会いを大切にしながら、一年間の園生活が楽しいものとして、心のどこかに残るような経験をさせてやれたらと思います。また、園で経験したことがすぐに実を結ばずとも、やがてなにかの折りに役に立ったり、なにかの支えになってくれたりしたらどんなにうれしいことかと思います。

理想的な幼児教育への道は、まだまだ遠く時間もかかるようですが、途中でくじけず、一歩一歩目標に向かって歩んでいきたいと思います。常に笑顔を絶やさずに。

そうすることが、子どもたちにとって、かけがえのないあの素敵な笑顔をくもらせないことにつながるような気がするのです。

 

(磐梯町立磐梯幼稚園教諭)

 

みんないっしょに

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