教育福島0065号(1981年(S56)10月)-006page

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運動の発達

 

筑波大学教授 金子 明友

筆者紹介

 

筆者紹介

昭和二年生。筑波大学体育科学系教授。(財)日本体操協会理事。郷土の栄誉を担い、ヘルシンキオリンピックに日本を代表して出場(体操)、特に平行棒、鞍馬に力量を発揮した。体操競技力向上に力をそそぎ、スイスのガンダー氏の手になるといわれている体操のルールの制定に大きな影響を及ぼした。「世界の体操界の頭脳」ともいわれ、後継者養成に余念がない。

「体操競技のコーチング」(昭48大修館)「スポーツの科学原理・運動学からみたスポーツ」(昭52大修館)など著書も多く出している。須賀川市出身。

 

這えば立て、立てば歩めと親は願う。特に、母親がわが子の運動発達に寄せる関心は大きい。ヒトの乳児は他の動物に比べると、誕生後すぐに周界に働きかける運動の能力もなく、自ら栄養をとることさえできず、まったく頼りない存在である。そこでは母親による養育が不可欠となる。それだけに母親にとっては、わが子が寝返りをうち、首をもたげ、そして這い這いを始めるなどの運動発達の展開は、その努力の成果を示すものとして関心の対象になる。「うちの子はもう這い這いができるようになった」と言っては喜び「まだ歩くこともできない」と言っては心配する。

ゼロ歳においては、まだ言語生活に入らないので、生活のすべては運動の習得に向けられる。朝から晩まで、人間としての運動生活の基礎形態の形成のために習練する。母親がわが子の運動発達に一喜一憂し、初めての独り歩きにほほずりする姿のなかには、選手の競技力の向上を図るコーチを見ることさえできる。母親にゼロ歳のときの運動発達のプロセスを尋ねると、驚くほど明確な観察データを示すことが少なくない。うちの子の這い這いは、最初のうち、左手と左足を同時に動かしたのに、少したつと手足を交互に動かすようになったなどと答える。おそらく、わが子の運動習熟の推移を、愛情こめてじっと観察していたのであろう。

学校の体育でも、将来の豊かな運動生活のために必要な運動発達を促進するものであるが、ゼロ歳児の母親が示すような運動教育に学ばなければなるまい。しかし、わが子が這い、立ち、歩くのを願う真剣さを他人の子の運動発達にすべて移すのは、そうたやすいことではない。

 

 

 


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