教育福島0071号(1982年(S57)06月)-020page

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はじめに

 

心身障害児教育の目標は、一人一人の心身障害の種類や程度、発達段階、特性の的確な把握に基づいて、教育課程を編成し、個々の実態に応じたきめ細かい指導をとおしく心身の調和的発達を培い、障害を克服して、日常生活基本動作及び習慣や、社会生活に必要な資質を確立させ、身辺の自立から社会的自立へと児童生徒を育成することである。

義務制の実施に伴い、従来教育の機会を与えられていなかった重度重複障害児が就学するようになったことにより、小・中・高等学校に準ずる教育が可能な者から、身辺の自立すら困難で常時介助を要する者まで、対象児童生徒は、多様化してきた。

心身障害児は、障害の種類(視覚、聴覚、知能、肢体不自、病弱等)や障害の程度により、正常な心身の発達が阻害されているために、知的発達、運動発達、情緒、社会性の発達に遅滞や偏りがみられ一人一人の発達の様相は多種多様である。

心身障害児教育は、一人一人のニーズに応じ、発達上の遅滞や偏りを補い可能性を最大限に伸ばし、心身の調和のとれた望ましい入格形成を図ることである。

生徒指導は「全ての児童・生徒を対象として、一人一人の人格の価値を尊重し、個性、能力の伸長を図りながら社会的、国民的な資質や行動を高めることを目的とする機能である」といわれている。

心身障害児教育においても、教育活動全体の中で一人一人の人格形成の働きかけが要求される。

障害者対策に関する長期計画の中に「心身障害児に対して、その障害の種類、程度、能力、適性等に適切な教育を行い、その可能性を最大限に伸ばし可能な限り社会的自立の達成を図り、また、障害をもたない健常者については、障害者に対する正しい認識を深めるようにすることが必要である」と示されている。

重度重複障害児の身辺の自立をめざす教育から社会的自立をめざす教育まで、幅広い対象児の教育について、内容、方法の充実に努めることが必要であろう。ここでは、基本的なことについて述べる。

 

一 心身障害児の理解

 

心身障害児は、障害の種類により、心身の発達の遅滞や偏りのある児童・生徒であるが、基本的欲求や発達の過程は、健常児と同じであり同一線上にあるという認識が必要である。障害児は健常児と異なっている側面だけ見えるが、どんなに重度重複障害児であっても多くの共通点がある。発達の遅滞や偏りは、個人差と考えて指導にあたる必要がある。

たとえば、脳性まひ児は、脳の損傷部位によって、知能、言語、視覚、聴覚障害を随伴した重度重複障害児から軽度の運動機能障害児まで多種多様である。重度重複障害児であれば、実態に応じ、環境からの刺激に注意を向けまたは、それに適した行動の獲得を発達レベルに合わせ、適切な働きかけを行うことから訓練を始め、自発性を誘発するように指導しなければならない歩行までの訓練プログラムは、運動機能の発達段階に合わせ、首のすわり→寝がえり→四つ這いと、健常児の乳幼児の発達の過程と同じ段階で行うことが基本である。

心身障害児の理解にあたっては、現象面にとらわれて、特別なのだとする考え方ではなく、障害からくる発達上の遅滞や偏りをもった児童生徒であるという理解が大切である。

 

(一) 実態の把握についての留意点

 

実態の把握にあたっては、医学的諸検査、知能検査などの心理学的諸検査生育歴などの諸調査、行動観察等は、教育の可能性を知るための指導資料を作成するために行うものである。各種能力の発達の現状を具体的に把握し、児童生徒の発達の全体像を明確にし、今後の成長発達の指導方針をたてるものである。現在の子どもの能力や特性を静的に把握するのでなくて、何を、どのように伸ばせるかという予測を立てるための把握である。今、この子に「何が必要か、どうしたらよいか」成長発達を促進する具体的な課題を設定できるような実態の把握が指導の基本である。

 

(二) 障害児理解の基本的あり方

 

どんなに重度重複障害児であっても基本的欲求(探求、成就、独立、愛情所属、社会的承認等)を認め、生きる喜びの芽を育ててやることによって、自発性を伸ばすことができる。教師と子どもの心のふれあいをもとに、成長発達の喜びを感じあう共感的態度で指導にあたることが基本である。特に子どもが自発的に行動し、生活できる能力を育てることが重要である。

 

二 生徒指導と養護・訓練

 

養護・訓練は、障害の状態の改善を図ることによって、日常生活の基本動作の確立、移動力、コミュニケーションなど、日常生活や社会生活に必要な知識、技能、態度及び習慣などの心身の発達の基盤を培うことである。

重度重複障害児においては、生命の維持と健康・安全の保持・運動機能の向上・情緒の安定と対人関係の改善・言語の習得と表現能力の拡充・知的能力の発達促進等、一人一人の障害の実態に応じて、訓練を行うことによって日常生活の基本動作を習得させるよう努めなければならない。

脳性まひ児の場合については、例えば脳に器質的疾患をもつ運動機能障害を基本障害としているが、知能、言語

 

 

 


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