教育福島0071号(1982年(S57)06月)-040page

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知っておきたい教育法令

 

内申書裁判

 

(総務課管理主事・古市孝雄)

 

一 はじめに

五月十九日に東京高等裁判所は、いわゆる内申書裁判で控訴人(千代田区及び東京都)の主張をほぼ認め、昭和五十四年三月二十八日の一審判決を覆し注目された。

東京地方裁判所が言い渡した一審判決は、子どもの学習権の問題をとりあげ、内申書(学校教育法施行規則第五十四条の三及び第五十九条にいう調査書)中「行動及び性格の記録」の評定及び、備考欄の記載について基準を示すとともに、公立中学校における生徒の思想・信条の自由等に関して積極的な判断をし、原告の損害請求三百万円のうち二百万円の支払いを被告に命じ大きな反響を呼んだ。

控訴審判決は、本件事実関係からして評定等につき校長の裁量権の行使に違法はなかったとしたものであり、原告請求のうち十万円のみを認めた。

二 事実の概要

原告は昭和四十六年三月東京都千代田区麹町中学校を卒業し、進学を希望して都立第二十六群及び私立高校四校を受験したが、いずれも不合格となった。ところで、中学校長から原告の受験した高校に提出された原告の調査書には、いずれもその「行動及び性格の記録」欄所定の十三項目のうち「基本的な生活習慣」、「自省心」及び「公共心」の三項目に対する評定がCとされ、その理由として、原告が、校内で全共闘を名乗り、機関紙を発行したこと、文化祭の際、文化祭粉砕を叫んで他校の生徒とともに校内に乱入し屋上からビラをまいたことなど原告が学校内外において一定の政治的活動をした旨の事項が記載されていた(備考欄記載事項)ことが判明した。

そこで原告は各高校を不合格になったのは右C評定等が直接の原因であり中学校長の違法な調査書作成提出行為により学習権が侵害されたとして、また、卒業式に際し、原告の出席を禁止し卒業式を分離挙行することにしたのは学校の管理運営に関する権限を濫用し、原告の学習権に対する違法な侵害であるとして、国家賠償法第一条第一項に基づき学校の設置管理者である千代田区及び同法第三条第一項に基づき費用負担者である東京都に損害賠償の請求を行った。

三 一審及び控訴審における主な争点と各裁判所の判断

一審及び控訴審での主な争点は、調査書中のC評定等が原告の高校不合格の結果に原因となったか、調査書作成提出行為の違法性の有無、及び分離卒業式の違法性についてであった。以下それぞれの争点について各裁判所の判断を紹介する。

(一) C評定等と高校不合格との間の因果関係

一審の東京地方裁判所はこれについて「高等学校の入学者の決定は、調査書、選抜のための学力検査の成績等に基づいて各学校長が主体的に決する事柄である(学校教育法施行規則第五十九条第一項)ところ…《証拠略》によれば当時昭和四十四年から同四十五年にかけていわゆる東大紛争をも含めた大学紛争が一九七〇年の日米安保条約自動延長反対・ベトナム戦争反対運動と相まって全国的に激しくくり広げられるとともに、この学園紛争が高等学校にも波及し、多くの高等学校当局者がその対策に苦慮している状況下にあり ・学園紛争を惹起せしめるおそれのある運動に関与したり、これに共鳴しているような生徒に対しては入学を好ましくないと考えていたことがうかがわれ ・各高等学校が原告を不合格とした決定的理由も、調査書中の本件C評定、本件備考欄記載事項の記載にあったものと認められ右認定をくつがえすに足りる証拠はない」から原告が各高校を不合格にされた結果と校長がC評定等をしたこととの間には社会通念上相当因果関係があると認めた。

これに対し控訴審の東京高等裁判所は、都立高校の場合、調査書中の学習の記録等と学力検査との総合成績により群の入学候補者を決定するものとされていること、私立高校の場合、当該高校の方針如何によりあるいは面接及び学力検査の結果如何によっては合格も考えられることから、C評定等のために原告が入試不合格となると予測することはできず、校長がC評定等をしたことと原告の高校不合格との間に相当因果関係はないとした。(以下次号)

 

 

 


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